第150話 再会

 キキッ!?


 どうやら聖火でなくとも体は燃えるようで、火だるまになったフォレストモンキー達が地面に転がる。嫌がる素振りからして、多少なりとも効果はあるようだ。


「じゃあこのまま止めを刺して…っ!?」


 地面をのた打ちまわるフォレストモンキーに近付いたその瞬間、倒木の影に隠れていた1体が突然その長い腕をのばしこちらへと襲いかかってきた。

 不意をつかれた私は反応が遅れてしまう。動揺する間に一瞬でフォレストモンキーの爛れた手が眼前に迫った、その時。


 ヒュッ!


 突如鳴り響く風切り音と共に飛んできたのは、1本の矢。

 それは、寸分たがわず迫っていたフォレストモンキーの手を撃ち抜いた。


「っ、今!」


 撃ち抜かれたことによる体勢の乱れを逃さず、飛びかかってきたフォレストモンキーの体を真っ二つに切り裂いた。残りのフォレストモンキーにも油断せず聖火の矢を撃ち込み殲滅完了。


「今の矢は…」

「フィリアちゃん!」


 矢が飛んできた先から、聞き覚えのある声と共に駆け寄る足音が聞こえた。この声は…


「ベル!?」

「フィリアちゃぁぁん!」

「え、わ、わわ!」


 ぴょーんとこちらへと飛び込んできたベルの体を受け止める。危ないから止めて!?


「何でここに?」

「それはこっちの台詞だよぉ…気が付いたらこんな所にいて、変な魔物はいるし矢は効かないしもう散々だったんだよぉぉぉ!」

「あぁはいはい泣かないの」


 私の胸の中でわんわんと泣き始めたベルをあやす。まぁ泣きたくなる気持ちは分からないでもない。普通の武器ではこのダンジョンの敵を倒せないのだから、恐怖しかなかっただろう。


「うぅ…でも、フィリアちゃんに会えて良かった…このまま1人で死んじゃうかと思ったよぉ」

「よしよし。よく頑張ったね」


 しかし、無関係なはずのベルが何故このダンジョンに飛ばされたのか。おそらく…いや、絶対に意図的なものだろう。だが、だからこそ分からない。

 私が思考の海に沈もうとしたその時、グゥと気の抜ける腹の虫が鳴いた。


「お腹、空いた…」

「ベル、まさか何も食べてなかったりする?」

「うん。だって準備する時間なんてなかったし」

「まぁそっか…じゃあ取り敢えずこれで我慢して」


 まだ敵がいるかもしれない中で悠長に食事はできない。なので片手間で食べられる干し肉を一切れ手渡す。

 するとベルは目の色を変えて干し肉に齧り付いた。どうやらかなりの空腹だったようだ。


「ベル。ここにきてどれくらい経ってるか、分かる?」

「分かんない…日も落ちないから」


 日光があると勘違いするほどこの階層は明るいが、どうやら地上の時間と同調している訳では無いようだ。


「一応水は出せるからそれで凌いでたんだ」

「なるほど」

「それでソフィアちゃんはいつからここに? というかここ何処か分かる?」

「えっとねぇ…まずわたしも正直どれくらいここにいるか分からないの」


 一日は経ってないとは思うけれど、時間そのものが歪んでいる可能性があるので頭ごなしには否定できない。


「ただ、ここが世界樹のダンジョンの中だってことは知ってるよ」

「………」

「ベル?」


 いきなりベルが固まってしまった。


「……ダンジョンぽいなとは思ってたけど、世界樹なの?」

「うん」

「し、叱られたり、しない?」

「それはないでしょ。好きで入ったんじゃないし」


 世界樹のダンジョンは国が管理している為、勝手に入ることは許されていない。だが、自らの意思で入った訳では無いのだから、咎められることはないだろう。


「それなら、いいけど…」

「ま、どちらにしろここから無事に出られたのならの話だけど」

「ここ怖いこといわないでよぉ!」


 ベルを怖がらせてしまったが、あながち冗談でもない。

 私1人だけなら、まだ何とかなった。けれど、今はベルもいる。ここの変質した魔物に対して有効的な攻撃手段を持っていない以上、戦力にはなり得ない。まぁ、さっきみたいに攻撃を逸らすこととかは出来そうだけど。

 ともかく、包み隠さず言うとベルはお荷物に等しいということなのだ。


「うーん…」


 ベルも戦力にしたいけれど、聖火の矢は流石に物体化できない。


「ベル、あと矢はどれくらい?」

「えっと…20本くらいかな。あとは風の矢が5本くらいと、火の矢が3本」


 そう言って矢筒からそれぞれの矢を取り出して見せてくる。

 風の矢っていうのは、風魔法が込められた矢。自らが風を巻き起こすため射程が長くなるのが特徴だ。至近距離から撃ち込めばかなりの威力が期待できるが、本数が心許ない。


「私もそう持ってないけど、とりあえず渡しとくね」


 アイテムボックスから普通の矢を10本ほど出して渡す。多く渡しすぎるとかえって邪魔になるからね。

 ベルが矢筒にしまったところで、気配察知が反応する。どうやら生き残りがまだいたようだ。


「ベル、生き残りがいるみたい。私が基本的に戦うから、ベルはまず自分を護ることを優先して」

「フィリアちゃんのサポートは?」

「余裕があれば、かな。一先ずは自分優先だよ」

「分かった!」


 さて。やろうか。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る