第140話 未知との戦闘

 気配隠蔽を展開し見つけた反応へと向かう途中、壁へと目を向ける。


「…黒いな」


 全体的に木肌が黒い。枯れているのとは、また違う。真っ黒な何かに蝕まれているような……そんな感じ。


『あまりいい感じはしないね』

「そうだね…」


 だけど、感覚として理解出来る。これは、私では治せない。正確には、聖火では治すことが出来ない。何か……原因を消さない限り。


「……もしかして」


 何故か浮かんだ、全ての敵を倒さないといけないという考え。これってつまり、その敵がこの蝕んでいる原因だからなんじゃあ……?


「まぁ、それもすぐ分かる」


 反応はかなり近い。

 ダンジョンだからその通路は迷路のようになっていて、おそらく反応は次の角の先だ。

 気配隠蔽をより強く展開し、角から敵を覗き見る。


「……なにあれ」


 少なくとも、私は見たことがない存在が、そこにはいた。

 うねり動く多数の足のようなものの上に、丸い球体が一つ乗っかっている。色は黒っぽいような、紫っぽい色。

 ………はっきり言おう。気持ち悪い。


「…どうやって倒そうか」


 翡翠を見ると、青白い輝きを纏っている。どうやらあの謎の力を持つ存在のようだ。


「…やるか」


 まずは牽制として氷の矢を創り出し、打ち出す。


 キシャァァァァ!!


 こちら存在に気付いたのか、謎の生物が鳴き声のようなものを上げる。そして足のようなものを動かし、打ち出した氷の矢を叩き落とした。


「まじか」


 思ったよりも動きが早く、足のようなものも、縦横無尽に動くようだ。もう足というより、触手だな。


「……げ」


 上に乗っかっていた球体は、眼だったらしい。瞳孔が縦に裂けたオレンジ色の眼が、私を捉える。


「…っ!」


 数本の触手が槍のように襲いかかってきたので、後ろに飛んで距離をとりつつ、翡翠を振り切り落としていく。


 ギャァァァァ!!


 切られたことによる苦痛なのか、叫び声のようなものを上げて触手を引いた。1本だけ切る事が出来たが、見るともう再生している。


「…なんかデジャブ」


 前に戦ったあの男みたい。あの時は燃やすことで再生を妨害して倒したけれど……


「…やってみるか」


 とりあえず光源を確保するために強めの光の玉に作り直す。その後聖火を燃え上がらせ、足に魔力を集中して、一気に詰め寄った。


 キシャァァァ!!


 触手で襲いかかってきたので、切る。するとその部分が聖火に包まれた。やっぱりこれで正解……


「……とは、いかないのね」


 燃えた触手が、すぐさま根元から切り離された。どうやら任意で切り離すことが出来るらしい。

 ……そして、任意で切り離したということは、この聖火が脅威になると理解しているということだ。これは長引きそう……


「胴体にさせばっ!?」


 そう思って突っ込んだけれど、まるで護るようにして触手が密集し、近付けなくなった。そのことから察するに弱点は胴体のようだけれど、護りが硬すぎる。

 とりあえず一旦距離をとりつつ、眼玉目掛けて氷の矢を打ち込んでみる。


 パリンッ!


「まじかぁ…」


 氷の矢は弾かれた。けれど触手にではなく、閉じた瞼にだ。そう言えば最初は開いてなかったなぁ……。


「…聖火ならどうだろう?」


 物は試しと聖火で矢を創り出す。するとあからさまに後ずさり始めた。これは効果あるかも?


「いけっ!」


 青白い聖火の矢が敵に襲いかかる。それらを触手で叩き落とそうと伸ばしてくるが、叩くどころか触れた瞬間に燃え出した。


 キシャァァァ!!


 それらの延焼は自切して逃れられてしまったが、止められなかった聖火の矢が迫る。

 しかし、叩き落とされなかったとはいえ威力は落とされていたらしく、数本の矢が本来の狙いである胴体の少し下の根元へと命中してしまった。

 ……だが、1本だけ、まるで吸い込まれるように胴体に突き刺さる矢があった。


 ギャァァァァ!!


 燃え広がることによる苦痛からか、敵がもだえ始める。私はより確実なものにする為に、眼に目掛けて翡翠を突き刺した。

 すると完全に絶命したらしく、だらりと力が抜けて地面に横たわる。そしてそのまま聖火に燃やされ、灰ひとつも残らず消滅した。


「ふぅぅ…」


 思わず息を吐きつつ、地面へとへたり込む。見たことがない敵と戦うのは、本当に疲れる。どう行動するか分からないし、弱点も分からないから。

 今回の敵は以前戦った相手に似ていたということと、翡翠……聖火の存在があったからこそ倒せたようなものだ。


「…まだまだ、自分の力を把握出来てないんだろうなぁ…」


 本当にそれを痛感する。もし把握出来ていれば、もう少しやりようがあっただろうし、早く倒せただろう。それだけ私には"力"があるとは理解している。だけど……理解していても、使えなければ無いも同然だ。


「……嘆いたって始まらない、か」


 その事を再認識できただけでも収穫なんだ。前向きに考えよう。

 今回の敵は、力押しでは倒しきれない。それを実感した。だからこそ、丁度いい練習相手となる。


「……残るは、あと4。頑張ろう」

『私も頑張るっ!』


 …翡翠。頑張るって言っても、刀の状態だったらほとんど何も出来ないよね?あぁいや、浮いたりはできるのか。


『……確かにそれくらいかも。でもっ!でも応援するからっ!』

「……ありがとう?」


 まぁ1人だけでは無いと思えるだけでも、いいのかな。




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