第138話 え、出れないの?

 とりあえず今はこの禍々しい、気持ち悪いを消さないとね。


「えっと…」


 ここをこーして…あーしたら。


「…できた」


 私の目の前にいきなり現れた、蒼い炎。見慣れた、翡翠刀が生み出す聖火。


「…消えないんだ」


 ここは樹液の中、つまり水の中ということなのに、聖火は消えるどころか何もない場所で燃え続けている。

 ……確か魔法で創り出した火は魔力を糧に燃えるんだっけ。それと似た感じかな。


「とりあえず…」


 聖火を気持ち悪いタールみたいなのに近付けて燃やす。おぉ、よく燃える。

 燃えるにつれて、吐きそうだった気持ち悪い感じも消滅していった。


「終わっ…た?」


 気持ち悪い感じは完全に消滅した……けれど、本当にこれで終わりなのだろうか?


「…ていうか、そもそもこっからどうやって出るの?」


 えっと、えっとぉ……あっ!入ってきた知識にあった!なになに…


 世界樹は世界の一部であり、地中に伸びた根は世界の監視、又は安定化を担う。内部は■%ゝにより満たされている。根の外部から内部に入ることは比較的容易だが、内側から外側に出ることは不可能である。


 ………ちょっと待て。


「出れないじゃないの!?」


 不可能であるって…あ、続きがある。


 そのため根の内部に侵入した場合、本体である世界樹へ向かい、そこから脱出する他ない。


「…はぁ」


 世界樹に向かうしかないのかぁ…ん?


「…これ、狙ってやってるよね」


 世界樹の根を治すことではなく、世界樹に向かわせること自体が目的なら?

 ……でも、その目的が分からない。そもそも世界樹に向かわせるのなら、転移させた方が楽なはずだ。それをわざわざ世界樹の根を伝って向かわせる理由が分からない。


「…まぁ、せいぜい踊らされてみましょうかね」


 どうせ教えてはくれないのだ。なら、せいぜいそのに動いてやろうじゃないか。




 ーーーーーーー


 リーナの屋敷にある地下室へと男を連れていく。念の為起きて暴れないよう、睡眠魔法を掛けておくのを忘れない。


「とりあえずこいつが起きるまで、色々と説明してくれないかしら?」

「ええ、もちろん」


 時間は有効活用しないとね。

 男を椅子に縛り付けて、リーナと共に別の椅子に座る。


「まず起こそうとした騒ぎなんだけど……ロックゴーレムのスタンピードよ」

「ロックゴーレムの!?」


 リーナが驚きから目を見開く。まぁ、それも無理はない。ロックゴーレムのスタンピードはとてつもなく危険な現象だ。一体ずつなら問題は無いのだけれど、硬いから数が多いと倒すのが大変になる。だから危険度はとても高い。

 ……フィリアはあんなに簡単に倒してたけれど、それは本来ならありえないのよ?ほんとあの子は…


「ふふっ。その様子だと、フィリアちゃんが大体やっつけたのかしら?」

「……ええ。思ってた斜め上の方法でね」

「何したの?」

「…巨大なパチンコで岩を飛ばして、ロックゴーレムをなぎ倒したのよ」

「………え?」


 リーナが、何を言っているのか分からないと言いたげな表情を浮かべる。

 …分かるわよ、わたしも。自分で何言ってるか分からないんだもの。


「岩を、当てただけ?」

「ええ。周りに被害が出ないよう考えた結果だそうよ」


 でもあれは無いわよね…しかも魔法を使わなかったのは、そちらのほうが被害が出るかららしいし。

 ……使ってたらどうなってたか。想像するだけでも恐ろしいわね。


「…フィリアちゃんは、大丈夫なの?」


 リーナが心配しているのは、その力についてだろう。その力に呑まれはしないか、と。


「大丈夫じゃない?」

「……軽すぎでしょ」


 いや、ねぇ?だってあの子物凄く図太いしポジティブだし…


「…まぁ、それは同感だけど」

「でしょう?」


 そもそもダンジョンのゲートキーパーの目の前で食事を始めるような子だもの。

 それに……とても優しいということも知っている。性格は、まぁ大雑把ではあるけれど、善意には善意を、なんの戸惑いもなく返すことができる子だもの。絶大な力を持っていたとしても、その力に呑まれることはまず無いだろう。


「うぅ……こ、ここは…」


 おっと。男が目を覚ましたみたいね。


「目が覚めたかしら?」

「え…おおお前は…」


 リーナのことも知っているようね。


「さて、話せるところまで話してもらうわよ」


 以前家に襲撃に来たやつらから、組織に関して公言した場合死ぬ呪いがかかってるみたいだし、話せるところまで話してもらいましょうかね。


「だ、誰がっ!」

「そう。じゃあまずは…」


 真っ赤に熱されたコテを男の目の前にチラつかせる。


「これが何か、分かる?」

「コ、コテだろう」

「ええ。じゃあこれをあなたの顔に付けたらどうなるかしら?」


 そう言いながらゆっくりと男の顔へと近づけて行く。


「やっ、やめっ」

「話したらやめるわよ?ほらほら」


 じわじわと近づけて行く。すると、ジュワッと肉が焼ける音が聞こえた。


「ギャァァァァ!!!話す!話すから離してくれぇぇぇ!!」


 案外あっさりと堕ちたわね。


「じゃあ質問に答えてもらうわよ。まず起こそうとしたのはスタンピードで合ってるわね?」

「は、はい…」

「起こそうとした目的は?」

「…六大英雄がいる王都を襲撃すれば、殺せると…」


 なるほどね。確かにこの王都には常時2人の英雄がいるものね。


「他には?」

「…聞いてません」

「じゃあ次の質問。黒幕は誰?」

「…言えません」


 …やはりね。こちらにも同じものが掛けられているか。


「情報はそう得られそうにないわね」


 リーナの言葉に同意する。とりあえず男は重要参考人として牢へ投獄されることとなった。

 ……そういえば、フィリア遅いわね?

















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