第137話 世界樹

 ドライアドについて行くこと、数分。少し開けた場所に出た。

 

「ここなの?」

『そう。あそこを見て欲しいんだ』


 ドライアドが、ある一点を指さした。

 そこにあったのは、何かを掘り返したような跡。


「なにこれ?」

『世界樹の根がある場所だよ』

「世界樹……」


 そういえばローブの奴らは、世界樹の根の力を利用してスタンピードを起こしていたね。それの痕跡か。


「これをどうすればいいの?」

『えっと…うん、世界樹の根が切れちゃってるみたいだから、治して欲しいの』

「……え?」


 世界樹の根を治す…?いやそもそも切れちゃってるの?


「それはドライアドの専門分野じゃないの?」


 そもそもドライアドは木の精だ。世界樹も木の部類に入るのだから、根を治すのはドライアドがやったほうがいいはず。


『専門分野は木…というより、自然全体なんだけど……世界樹はちょっと違うの』

「ちょっと違う?」

『うん。なんて言ったらいいのかな……あれは、なの。だからあれは自然とは言えなくて、私の力が及ぶ範囲外なの』

「世界の……」


 ちょっとそれは予想外だったけど…


「でもそれなら、なんで尚更私なの?」


 私はただの人間…うん、多分人間だ。だからドライアドにどうにか出来ないものを、私がどうにかできる訳が無い。


『……まぁ、そうなるよね』

「ん?」

『…多分、大丈夫だよ。だって……え?あ…うん』


 ドライアドが途中で言葉を止め、何かに反応する。


「なに…?」

『…なんでもないよ。とにかくやってみて、ね?』


 そう言いながら、ドライアドが私の背中を押してくる。


「わ、分かったから!」


 いきなり押されてずっこけそうになったので、押すのをやめてもらって自分で掘り返された場所へと向かう。



「………ん?」


 なんだろうか……近づくにつれ、懐かしいというか、心が落ち着くような…そんな感じがしてきた。一体……?

 まぁ、とりあえず悪い効果ではなさそうなので保留にしよう。


「……これが」


 掘り返された所は意外と大きく、私がすっぽり入れるほどだった。その穴の奥のほうに、緑っぽい管のようなものが見える。おそらくこれが世界樹の根なんだろう。

 その根には何かを刺したような跡と斬った跡があり、そこから透明な液体が流れ出ている。


「これを治すの?」

『そう。召喚に使われた魔法陣とか、この根に刺さってたよく分からないものは壊しといたから、後は治すだけ』

「で、どうやるの?」

『それは……え?でも……はぁ』


 またしてもドライアドが、誰かと話しているように独り言を呟く。


「誰と話してたの?」

『…言えない。けど…まぁ、知ってると思うよ。とても』

「…?」


 私の知っている人?誰だろうか…


『…ごめんねっ!』

「…え?!」


 私は一瞬何が起きたのか分からず…ちょっとして、ドライアドに突き飛ばされたということを理解した。


「ちょっ!?」


 私はそのまま世界樹の根がある穴へと落ち……その意識を失った。




『…これでいいの?』


 ーうん…ありがとう。ごめんねー


 そんな声が聞こえたような気がした。







 ……ここはどこだろうか。水の中にいるような、ゆらゆらとしたような…ふわふわとしたような……不思議な感覚。


「ここは……」


 声は出る。目も見える。動くのは…ほんとに水の中にいるみたいに鈍いけれど、動ける。


「確か……」


 ……そうだ。いきなりドライアドに突き飛ばされたんだった。ほんとなんで突き飛ばしてきたのか……

 まぁそれはともかく。ここはあの穴ではないよね。間違いなく。となるとここは…まさかとは思うけど…世界樹の根の中なのでは?


「……中に入って治せと?」


 そもそもどこを治したらいいのかも分からないのに、どうしろと…


「……ん?」


 なんだろうか…嫌な感じがする。世界樹の根に近づいたときに感じた、あの心地いい感覚に、濁りが生じたような…そんな感じ。


「…こっちか」


 感じる方向へ向かうことにする。水みたいな感じだったので泳ぐことにした。

 ……意外と泳げるな。満たしているのは樹液なのかな…





「ここ、だよね」


 感じていた場所へとたどり着いた。そこに向かうまでの間、どんどん嫌な感覚は増えていて、今では気持ち悪いくらいだ。


「…これ?」


 たどり着いた場所にあったのは………黒い淀んだ樹液。ネトっとした、タールみたいな感じ。


「…うっ」


 吐きそう…でもこの感覚は感じたことがあるものとよく似ていた。

 あの、禍々しい魔力。それにとてもよく似ていたのだ。


「翡翠…は、出せないか」


 試してみたけれど、どうやらここではアイテムボックスが使えないらしい。翡翠の浄化を使えるかと思ったんだけど……


「…聖火、だったよね」


 翡翠を取り出せない以上、あの蒼い聖火を私が創り出す必要があるだろう。でも原理なんて……


「うぐっ!?」


 突然何かが私の中へと流れ込む。それは……記憶だった。世界樹が見てきた、記憶。知識。それらが私の中へと流れ込んでくる。

 しかし、それはあまりにも膨大な量で……頭に激痛が走った。


「アァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ッ!?」


 痛い痛い痛い!魔法で軽減しようとしても一向に良くならない。脳が焼けるような痛みを味わい続けた。










「うぐっ…」


 やっと激痛から解放される。ほんといきなりなんだってのよ……


「……納得いくけど、納得いかない」


 記憶、知識を覗いてみて、やられた理由は納得できた。でも、やられたことに納得がいかないのだ。しかもいきなり。


「……はぁ」


 …記憶、知識。それは私の中へと完全に入り込み、思うだけで全て出てくる。その中には…聖火についてもあった。おそらくこれを与えるためだろうけどさぁ……


「……絶対後でぶん殴る」


 待ってろよ!エルザ!








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