第129話 キャサリンの家族

 しばらくキャサリンの部屋で読書を楽しんでいると……


 ドタドタドタッ!!


 貴族の屋敷ではまず聞かないであろう騒がしい足音が、下から聞こえた。


「……なに、いまの足音」


 思わずキャサリンに問いかける。問いかけられたキャサリンは……かなり呆れた顔をしていた。


「はぁ……絶対お父様ですわ」

「あ、そうなんだ…で、なんでそんな顔?」

「……大方ロビン様とマリア様がいると執事に聞き、走ってきたのでしょうけど、貴族の行動ではありませんもの。呆れますわよ……」


 お、おう。なるほど。でもさぁ、それって盛大なブーメ…いや、なんでもないです。

 言葉に出てないのにキャサリンに睨まれたので、それ以上は心の中で言うのをやめた。


「下、行きましょうか」

「分かった」

「はーい!」


 散らかしていた本を仕舞い、部屋を出て下へと降りる。


「うぉぉぉぉ!!もう私は明日、いや今日死んでもかまわんっ!」


 ………やばい人がいた。泣きながらロビンの手を握って叫んでる。


「……あのさ。もしかして……」

「……はい。がわたくしのお父様ですわ……」


 うわぁ…娘にあれ呼ばわりだよ。確かにキャサリンはあそこまでではないので、呆れるのもわかる。


「はぁ……あなたっ!ちょっとは落ち着きなさいっ!」


 ゴンッ!


 ゴン…ゴンッ!?え、いや大丈夫?!頭殴って、え?!


「よろしくね」

「はい」


 どこからともなく現れた執事さんが、気を失ったキャサリンのお父さんを連れ去って行った。

 えっとー…?


「すいませんでした。お騒がせして……」

「いいのよ別に。まぁ、あそこまでだとは思わなかったけどね」

「本当にすいませんでした……」


 深深と頭を下げた女性。多分キャサリンのお母さんだろう。


「お母様」


 キャサリンがそう言って女性に近付く。やっぱりそうか。


「あら、キャサリン。それと……お友達かしら?」


 そう疑問に思うのも無理はない。だってキャサリンの屋敷に来たことは結構あるんだけど、キャサリンの両親にあったのは今日が初めてなのよね。なんか忙しいらしい。何をしてるのかは知らないし、知りたいとも思わないけどさ。


『思わないんだ……』


 だって聞いてどうするの。「へぇー」で終わりじゃない。だから別に興味はない。


「はい。そちらのオッドアイの子がフィリアさん。茶髪の子がベルさんですわ」

「あら、あなた達がそうなのね。聞いてはいたけど、会うのは初めてね」

「はい。初めまして」

「初めまして!」


 2人揃ってぺこりと頭を下げる。


「ふふっ。そんなに畏まらなくてもいいわよ。でも、礼儀正しいのはいいことね。……あの人にも見習って欲しいわ」


 それはキャサリンのお父さんのことかな?見習うって……貴族なんだから礼儀くらいしっかりしてるでしょうに。

 ………あ、でもさっきのはないな。そのことか。


「でも、どうして2人が?」

「あっ、そうなんです!フィリアさん、実はロビン様とマリア様の養子だったんですよ!」

「あらそうなの?」

「まぁ、そうですね」


 私がそう答えると、ロビンとマリアがキャサリン達に見えないように顔を俯かせた。責任を感じているのかな…。


「私は大丈夫だよ」

「「…っ!」」


 風魔法に声を乗せて2人だけに届ける。驚いたのか顔をこちらへと向けたので、微笑んでおいた。


「…ええ。私たちがしっかりしないとね」

「そうだな……」


 うん。これで2人は大丈夫だろう。


「ベルちゃんは?」

近くにいたので、わたくしが誘いましたら了承して下さったので、フィリアさんと一緒に来てくださいました」


 たまたま、ねぇ……あれをたまたまと言えるのかは疑問だ。


「たまたま……」

「……ここは黙っておこう」

「……うん」


 たまたま、キャサリンがベルの家の前に着いて、たまたま、呼んだらベルが出てきただけだ。うん。


『それはたまたまではないのではないか……?』


 気にしたら負けだよ、ガルマ。


『そ、そうか……』


 若干ガルマが引いていたように感じたのは気のせいだ。うん。


「それにしても、フィリアちゃんとベルちゃん。可愛いわねぇ」

「あ、ありがとうございます…」


 面と向かって言われると恥ずかしいな……例えお世辞でも。


「あ、そうだわ!うん、それがいいわ!じゃあフィリアちゃんとベルちゃん。一緒に来てちょうだい!もちろんキャサリンもよ」


 何故だろう。急に悪寒が……それに一瞬だけキャサリンのお母さんの瞳が怪しく光ったような……


「はぁ……こっちのことを失念していましたわ」

「え、なにがどういうこと?」

「えっとですね……」

「さぁ行くわよ!」

「「「えっ!?」」」


 いきなり3人の腕を掴んで引っ張られた。わぁお。キャサリンのお母さん、意外とあぐれっしぶ……


「ちょっ!?お母様!?」

「キャサリンも可愛くするわよー!」


 だめだこれ。聞いてない。


「はぁ……」

「キャサリン。もしかして……」

「はい…フィリアさんの想像通りだと思いますわ」

「え、どういうこと?」

「……お母様は可愛いものに目がないのですわ。特に可愛い女の子を飾り付けることが大好きで……」



 私は思った。








 …………この家族大丈夫か?



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