第130話 ドレスなんて嫌いっ!

 キャサリンのお母さんに有無を言わさずに連れ去られ、私とベル、キャサリンは着せ替え人形と化した。何着も着せ替えをさせられる。


「これも似合うわねぇ…可愛いわぁ…」

「お、お母様。もうそれくらいに…」


 何着も着せ替えさせられたせいで魂が抜けかけている私とベルを見て、キャサリンが助け舟を出してくれた。いやほんと着せ替えって疲れる……。普段着慣れないドレスだから尚のことね。


「あら、キャサリンもしかして嫉妬?」


 ……だめだこの人。完全に楽しむことしか眼中に無い。


「もうっ!」

「ふふっ。分かってるわよ。ごめんなさいね。私ったら可愛い子を見るとつい着飾りたくなっちゃって…」

「あ、いえ……」


 頭は意外と冷静だったようだ。だから先程までの様子との違いに、思わず面食らって返事がおざなりになってしまった。ほんとこの家族なんなんだ……。


「さぁ2人とも。その可愛い姿を見せてきてあげなさいな」

「「……え?」」


 見せる?この重いドレスを着たまま?立つことさえしんどいんだけど……


「魔法で軽減してみては?フィリアさんならば、それくらい出来るでしょう?」


 ……なにその期待。荷重なんだけど。

 えっと…軽くするなら持ち上げる…風で補助かな?後は上からも風で抑えてめくれないように……あ、だめだ。スカートが真横に広がる。えぇっと……あ、空間属性の重力魔法で重さを軽減すれば……


「……出来ちゃったよ」

「さすがですわね」


 だからその期待はどこからくるんだ…


 キャサリンにもかけようかとおもったんだけど、慣れているから大丈夫だと言われた。だからベルにだけかけておくことにした。


「うわぁ!全然違う!」

「ほんとにねぇ。重いよね」

「うん、重かった。ありがと、フィリアちゃん!」

「どういたしまして」


 さてと。マリアとロビンがいる部屋にもどりますか。








「……なんというか、こうして見ると貴族だって言われても分からないわよ」


 マリアからもらった言葉は、褒められているのかよく分からないものだった。


「褒めてる?」

「もちろん。可愛いわよ」

「あ、ありがとう…」


 ちょっと照れるな……マリアから可愛いなんてあんまり言われたこと無かったし。本心から言ってるっていうのも分かるから特にね。


「ベルちゃんも似合ってるわ。可愛いわね」

「えへへ…ありがとうございます」


 うん。ベルは同性の私から見ても可愛いと思う。私より似合ってるんじゃないかな。


「あれ?パパは?」


 部屋に入ったら真っ先に飛んでくると思ってたけど……そう言えばこない。

 部屋を見回しても、ロビンらしき人影はない。あれ?


「ロビンなら聖剣をね」


 そう言えば私がよく行っている武器屋で造ってるんだっけ。


「なんちゅう間の悪い……」


 いやいいのか?どうせ暑苦しかっただろうし……でもやっぱり親だからなぁ。見せたかったという気持ちも、なくはない。


「ふふっ。なんだかんだ言いつつフィリアもロビンが好きなのね」

「好き、ねぇ……あの鬱陶しい感じが無ければね」


 マリアも思い当たるところがあるのか、苦笑を零した。


「じゃあロビンはほっといて、王都観光でもしましょうか」


 ほっとくって……いいのかそれで。


「パパほっといていいの?」

「どうせすぐには帰ってこないわよ。聖剣が出来てたなら試しをする為に外に出るでしょうし。出来てなくても腕が鈍るって言って外に行くでしょうしね」

「な、なるほど……」


 さすが夫婦。ロビンの行動パターンをしっかりと把握している。


「じゃあ2人ともそのままいく?着替える?」

「「着替えます!」」


 2人揃って声を上げる。こんな格好で外歩いたら注目の的以外の何物でもない。

 ……キャサリンのお母さんが残念そうな顔をするけれど、それでも着替えさせてください。






「ふぅ。やっぱりこっちがいい」

「ねー」


 2人してクスッと笑う。やっぱり庶民には庶民の服がいい。ドレスなんて嫌いっ!


「じゃあキャサリン。よろしくね」

「はいっ!では馬車で」


 マリアは良くも悪くも有名人。魔法で顔を変えたり、変装したりすることも考えたけど……馬車に乗れば気付かれないというキャサリンの一言で、馬車で観光することになった。

 まぁキャサリンは貴族だから、普段の移動手段は馬車以外ほとんどありえない。そのキャサリンに案内してもらう以上、馬車でいくことはぼぼ確定だったんだけどね。


 馬車で王都を巡っていく。まず着いたのは、私もよく行っていた市場。マリアにはキャサリンが説明してくれる。


「ここは市場です。食品から日用品まで、なんでもそろいます。王都にある庶民の市場としては1番質がいいです」

「庶民の場所なのに詳しいのね」

「貴族ですから。王都について把握しておかないといけないのです」

「なるほど。どっかの誰かさんにも見習って欲しいわ」


 ……そのどっかの誰かさんって私の事だよね!?思いっきり目線向いてたし!?


「私貴族じゃないんだけど…」

「貴族じゃなくても生活圏でしょうが。ちょっとは把握しときなさい」

「えぇ……」


 いやまぁマリアの言いたいことも分かるんだけどさぁ……この市場と学園以外行く機会ないし、行く必要も無いし?だから把握する必要がないというか……最悪世界地図ワールドマップでなんとかなるしね。


「スキルばっかに頼ってたらろくな事ないわよ」

「的確に考え読まないで?!」






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