38.戦闘
魔女の爪の攻撃を、二人は紙一重で避けた。
とうとうエヴァンダーたちと魔女の戦闘が始まってしまった。
一刻も早く瘴気を浄化しなければ、二人に勝ち目はない。
「早く、どうにかしなくちゃ……!」
ルナリーはバッグから急いで魔石を取り出した。
今まで何度か自分の力の増幅を願ってきたが、それだけではすぐに瘴気を浄化できないと経験上わかっている。
「考えなさい、ルナリー……! 魔石は発想によって使い方は無限に広がるのよ……なにか方法が、必ずあるわ……!」
自分に言い聞かせるように呟き、ルナリーは脳をフル回転させた。
ただしここにあるのはクズ石と下級石、それに中級石がひとつだけ。
攻撃に使っても、避けられてしまえば終わりだ。そんなもったいない使い方はできない。
限られた中で最大限の効果が出る方法は……
「ぐあっ」
「っく!!」
アルトゥールとエヴァンダーの苦悶の声が聞こえる。早くしなければ、殺されてしまう。
ルナリーは瘴気を浄化しながら、延々とネックレスから流れ出される魔力を見つめた。
「そう、だわ……」
この鉱石の魔力は、半永久的だとエヴァンダーは言っていた。
使っても使っても減らない魔力。けれど出力は常に一定で、人が自分の魔力を扱うようには大きくも小さくもできない。
ルナリーは中級の魔石を握りしめると、頭の中で念じた。
無限の魔力の源であるネックレスの、出力のリミットを外して……と。
その瞬間、赤いネックレスから、膨大な魔力の塊が弾け飛ぶようにして放出される。
「ルー!?」
「なにを……!」
それはまるで爆風を生み出したかのような勢いで目の前に広がり、今か今かとルナリーの指示を待っているように見えた。
「なんなの、この魔力の塊は……!」
魔女が驚愕の声を出すと同時に、ルナリーはその魔力に聖女の力を載せる。
「瘴気の、浄化を!!」
ルナリーが祈ると、まるで台風が雲を吹き飛ばしたかのように瘴気が一瞬で掻き消えた。
きらきらと光るような夕陽が差し込んでくる。
大地は赤土のように明るく輝いていて、枯れそうになっていた木々が命を吹き返した。
「……なんて浄化の力なの……!?」
驚愕するように言った魔女はしかし、すぐに瘴気を出し始める。
「さ、せない……っ」
ルナリーはすぐに浄化しようとしたが、息を吸っても吸っても肺に行き渡らないような感覚に陥った。
寿命を、一気に持っていかれてしまった。だけど浄化をしなくては元の木阿弥だ。
中級の魔石は消えて、効果はなくなっていた。ルナリーはいつもの出力で、魔女が出す瘴気をすぐに浄化していく。
それだけでは済まず、自然発生する瘴気もだ。
「う……っく……はぁ、はぁ……っ」
「ルー、大丈夫か!」
「アル様、エヴァン様、早く……っ」
もう、長くは持たない。
ルナリーが言うより早く、エヴァンダーは魔女へと切り掛かっていた。
リリスから繰り出された爪をサイドステップで外側に回避。
伸ばされた無防備なリリスの右腕を、エヴァンダーが切り落とす。
ザンッ! と音がしたと思った瞬間、あっという間にその腕が再生していく。
一瞬の隙をついて胴に剣を入れたアルトゥールの傷も同様だ。
「な、早すぎる……!」
「さっきの薬は、再生強化ということですか……!」
「くそっ、首か心臓を狙え!!」
フォンっと音を立てて横に薙いだアルトゥールの剣は、身をかがめられて空を斬る。
エヴァンダーの突き出す剣は心臓の少し左を掠めてすぐに再生された。
相手が普通の人間であったなら、もう勝負は決していただろう。しかしリリスには再生能力があるため分が悪い。
「はぁ、はぁ……っ」
ルナリーは胸を押さえながら、瘴気を浄化する。
結界を張るまでは手が回らない……いや、おそらく寿命が足りない。
リリスの出す瘴気と、自然発生してくる瘴気を浄化するだけで精一杯の状況だ。
「がんばって……アル様……エヴァン様……!」
二人に託すより仕方なく、ルナリーは護衛騎士たちを見守る。
「アル、距離を!!」
「おうっ」
エヴァンダーはそう言うと同時にクズ魔石を大量に魔女に投げつける。
念じられた魔石はパンパンと音を立てて爆発し始めた。
しかしリリスは気にも止めずずズンズンと進んでいる。
「こんなクズ石程度の攻撃……たかがしれているわ……!」
「そうでしょうね。本命は別にありますから」
「なっ?!」
クズ石だけだと油断したリリスは、足元に落ちてある中級の魔石を踏み抜き──
「きゃあああああああああ!!」
ドカンッッ!!
耳が割れそうなほどの大きな音が鳴ったかと思うと、魔女の体が爆破の衝撃で宙に浮いた。
と同時に、二人の騎士がリリスに向かって走り出す。
首を。心臓を。どちらかを。両方を!
アルトゥールとエヴァンダーが同時に剣を繰り出した瞬間。
「ぐぁぁああああ!!」
「かはっ!!」
アルトゥールは腹を、エヴァンダーは肺を貫かれていた。
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