18.王都

 一行は王都に足を踏み入れた。


 王都は壮大で美しい都市だ。

 このところ、ずっと瘴気の渦巻く王都しか見ていなかったので、余計にそう思った。


 現在の時点で王都の結界は破られておらず、当然瘴気も満ちていない。その事実に三人はほっと胸を撫で下ろす。

 人々は忙しそうに闊歩し、市場では活気に満ちた賑やかな喧騒が広がっていた。

 平和な町、そのものだ。


 予定より早すぎる帰還だったが、イシリア国王は即座に謁見を許可してくれた。ルナリーは、今まであった出来事をできる限り詳しく話した。

 王妃メルローズも同席していたが、魅了はされておらず、新しい侍女を入れる予定は今のところないとのことだ。魔女が関わってくる前に戻れたことにホッとする。

 ルナリーたちは国王に、魔女の特徴とリリスという名前を伝えて注意を促した。

 リリスという名は偽名かもしれないが、侍女として仕えていたなら、その前からリリスという名を使っていた可能性が高い。

 イシリア王国では多く使われている名前だが、ある程度は絞り込めるはずだ。

 魔女が行動を起こす前に、どうにか見つけ出して捕らえる手はずとなった。もちろんその時には、聖女が出向かなくてはいけないが。


「国王陛下、今までにもこのようなことはございましたか?」


 エヴァンダーの疑問に、イシリア国王は口を開く。


「魔女を捉え損ねた、という報告なら何度かある。そのあと聖女は、皆死んでいったが……わしにも詳しいことはわからん」

「護衛騎士には話を?」

「聖女の死後、護衛騎士は姿を消しておるのだ」


 イシリア国王の言葉に、ルナリーは首を傾げた。


「あの、護衛騎士の方は、聖女の死後は独身を貫いている方が多いと聞いたことがあるんですが……」

「そういうことになってはいるな」

「護衛騎士の方は、一体どこにいらっしゃるんですか?」

「対外的には他国で暮らしているとしておる」

「あの、意味が……」

「ルナリー様」


 言葉を遮られた方を見ると、エヴァンダーはそっと口元に人差し指を置いていた。

 これ以上は言うなということだろう。ルナリーは仕方なく口を噤む。

 エヴァンダーはそのあと護衛騎士の行方には触れず、国王に禁書堂に入る許可をもらっていた。


 謁見が終わり、王の間を出ると、どっと疲れが出てくる。

 少し休もうということになり、町へ出ると今人気のカフェだというところに入ってみた。

 イチゴのタルトはなかったが、モモのタルトがあって、ラベンダーレモネードとともにエヴァンダーが注文してくれる。

 エヴァンダーは紅茶で、アルトゥールはコーヒーだけだ。


「ねぇ……先代の護衛騎士の方は、一体どこにいるの?」


 ルナリーの疑問に、二人の騎士は目を見合わせて困った顔を始めた。

 どうやらアルトゥールも、国王が言った消えた・・・という意味をわかっているようだ。


「エヴァン様」


 エヴァンダーに顔を向けても口を開けようとはせず、ルナリーは次にアルトゥールの方へと目を向ける。


「アル様」

「……まぁ、あれだ。弔い合戦だ」

「弔い……?」


 まさか、とルナリーは顔を顰めた。


「聖女の仇を取るために……?」

「多分な。だが聖女の力がなければ返り討ちに遭うのは目に見えてる。それか、魔女を見つけられずに旅しているか……どっちにしろ、独身を貫いてるってところは事実だよなぁ」

「元護衛騎士の行方については、陛下も預かり知らぬところでしょうから、あれ以上の質問はめたのですよ。申し訳ありません」


 むうっとルナリーが口を尖らせていると、給仕の男性がやってきて注文したものを置いてくれた。

  「ごゆっくりどうぞ」と去っていくのを確認してから、ルナリーは目の前に座るアルトゥールと、隣に座るエヴァンダーを交互に睨みつける。


「なんだよ、ルー。んな怖い顔して」

「だって……どうしてそんなこと、すぐわかっちゃうの?!」

「いや、まぁ……同じ護衛騎士だからな」

「じゃあ私が死んだあとは、アル様たちも同じようにするってこと?!」


 思わず声を荒げてしまったが仕方がない。二人のこわばった顔をみると、どういう行動に出るかはわかってしまう。


「だめだからね……絶対に、弔い合戦なんて……バカなことはだめ……!」

「ルー」

「ルナリー様……」

「私、言ったよね……私が死んだあとは、生きてほしいって……お願い、約束して……復讐なんてしなくていい……!」


 ルナリー必死の訴えに、アルトゥールは手を伸ばしてきたかと思うと、頭をくしゃくしゃと撫でられた。


「復讐なんてしねぇよ。だって俺らが魔女を討伐しちまうんだからな!」

「そうですよ。取り逃したりなど、絶対にしません」


 二人の言葉にホッとする。

 たしかに魔女を逃さず、討ち取ればそれで済むことなのだ。

 もちろん、簡単なことだとは思っていないが。


 二人を生かすためなら、どんなことをしてでも魔女を討ち取ってみせる──


 ルナリーの決心は、固まったのだった。

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