第15話 思春期~part3
僕はいつもの河川敷で景色を撮るフリをして、空良が飛ばすブーメランと
一緒に被写体が入るようにスマホのカメラを向け、こっそりと写真を
撮っていた。
『ん?』
カメラのシャッター音を消していても、動作でわかるのか
空良がこっちに視線を向ける。
『お、お前…どさくさに紛れて何、人の写真撮ってんだよ』
『ち、違うよ。僕はあまりにも綺麗な風景画だから、景色を撮ってたんだよ』
『嘘つけ。じゃ、見せてみろよ』
『ヤダよ。プライバシーの侵害だ』
『どっちがだ。…あ!』
空良は僕の気を引くように不意をつき僕のスマホを取り上げる。
『あ…ちょっと…』
空良は使い慣れた指を動かし僕のスマホを操作していく。
『……』
空良の冷めたように僕を見る眼差しに僕は瞳孔を泳がせながらも、
その視線はチラチラと伺うように空良に向ける。
『あー、やっぱりな。これ、盗撮だぞ』
『盗撮って…ひどいな…』
『勝手に許可なく撮ってんだから盗撮だ、バカ』
そう言って空良は写真を削除していく。
『あー、ちょっと待ってよ…空良…』
『っていうか、お前が撮った写メ、ブレてて何か変な写真ばっか…』
『え?』
『こんなの持ってられてもな…恥ずかしいし……嫌なんだよ』
『空良…』
『別に…お願いして頼んだら一緒に撮ってやらねーこともねーけど…』
空良は照れ隠しのつもりで青空を仰ぎ、鼻のてっぺんを親指で撫でていた。
そうやって無意識にするのは空良の癖だったね。
でも、僕には全然 隠れてなかったよ。
『じゃ、言うね空良。お願いします。中学最後の思い出に僕と一緒に写真を
撮ってくれませんか』
『別に…いいけど…』
空良は視線を横に背け、また無意識に親指で鼻のてっぺんを触る。
それにね、空良。僕は空良の頬が少し桜色に染まっていたことに
本当は気づいていたんだよ。
ねぇ空良、知っている?
頬が桜色に染まるのは相手の事を意識しているからなんだってさ。
『ほら、大地、もっとこっちに来いよ。カメラに入んないだろ』
『あ、うん』
僕は空良の方へと体を寄せていく。
僕も同じだよ、空良。今、こうしている間もずっと僕は空良のことを意識している。
僕は知っていたよ。空良が誰よりも意地っ張りで素直になれない子でも、
本当はすごく可愛い一面のある女の子だってことを知っていた。
強くて、口が悪くて、いつも『お前』とか言って上から目線で言うけど、
何だかんだいっても本当は優しくて面倒見が良くて、いつも僕を助けてくれる。
僕にとって空良はいつだって正義の味方なんだ。
僕の頬に空良の頬が微かに触れていた。
今、僕が横を向けば確実に空良の唇に接触するだろう。
不意につい触れてしまった事故でも、故意にしたことでも、どっちにしろ僕は
間違いなく空良にビンタされるだろう…。
『大地、一枚だけだからな』
『うん、わかってるよ』
『貴重な一枚だぞ。何、固くなってんだよ、笑えよ』
『笑えって言われてもな…』
『コノヤロー、笑えって…(笑)』
空良は僕の腰に手を入れ、こちょこちょとクスぶる。
『ひゃはっはっ』
僕の固くなった口元から笑いが零れる。
あー、もう限界だ。スマホを持っていた腕にしびれを切らせた僕は
思わず『カシャ!』とシャッターボタンを押す。
そして、それが僕と空良が撮った最初で最後の1枚の写真となった―――ーーー。
僕はちゃんと笑えていただろうか……。
多分、大丈夫だ。
口元が緩んでいた僕はきっといい笑顔で笑っているだろうーーー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます