第9話 思春期~part2
―――5カ月前。
いつもの河川敷に空良と大地は2人並んで座っていた。
別に約束をしているわけでもなく……、
約束はしていないけど、僕は今日も空良がいるような気がして
いつの間にか、この道が僕の通学路になっていたんだ。
そして僕は当たり前のように空良の隣に座る。
初めの頃は沈黙が続いていたけど、それももう慣れてきた。
結構、この
会話がなくても空良の隣は安心していられるんだ。
「あ、そうだ、これ」
僕は鞄の中から紙で包んだプレゼントを空良に渡す。
「何、これ?」
「プレゼント…」
僕は人差し指で鼻頭をすすりながら面映えに視線を逸らす。
「プレゼント? 私の誕生日、2か月以上も前だったんだけど…9月19日」
「知ってるよ…僕も9月19日なんだ」
「え…マジで? …うそだろ? でも、なんで……」
「空良さ、卒業文集に載せる原稿、どこかで失くさなかった?」
くすっ(笑)。僕は思い出し、思わす笑みを零す。
「ああ…うん。探したんだけど、見つかんなくて…」
「はい、理科室の机に忘れてたよ」
僕は鞄から原稿を取り出し、空良に渡す。
「お前が持ってたのかよ」
「理科の授業で理科室に行った時、たまたま座った席の机に
原稿があって、名前見たら空良のだもん。ビックリしたよ」
「そうだったんだ…」
空良が前の授業で僕と同じ席に座っていたと思ったら、本当に嬉しかった。
「それでさ、プロフィール欄、見たら僕と誕生日が同じなんだもん。
これって、絶対、運命じゃんって思っちゃった」
僕は恥ずかし気もなく口走って言ったことに後になって後悔した。
どんどん頬が熱く火照り、次第に口元まで緩んできた。
「ただの偶然だろ。何、ニヤついてんだ。気持ち悪い奴だな」
相変わらず空良はそんな僕の純情を一発でKO勝ちに持っていく。
それでも僕は嬉しい気持ちを隠せないほど照れ笑いが止まらない。
「―—っていうか、授業中に卒業文集の原稿書く?」
「まあ、あれだ、忘れないようにってな。でも、サンキュ。助かったわ。
――――で、中身 見た?」
「み、見てないよ」
ホントはちょっぴり見ていた。だけど、それは僕だけの秘密にしておくからね。
「ホントかよ」
「ほんと、ほんと …」
僕は愛想笑いでごまかした。空良の流れるような眼差しが僕を疑っている。
「っていうか、これが卒業文集に載ったら皆に見られるんじゃない?」
『……これは、練習だし…』
「え?」
空良がボソっと呟いたけど、はっきりとは聞こえなかった。
「何? なんか言った?」
それは空良の照れ隠しだとも知らず、僕は平気で空良の領域にズケズケと
入り込んでいった。
「別に…なんもねーよ」
急に空良はプスッと膨れっ面になり、視線を逸らす。
やはり、僕は空気が読めない男だ。
でも、僕はなんだかそんな空良が可愛く思えていたんだ。
やっぱり、空良も女の子だったんだと僕の心はドキドキ高鳴っていた。
「これ、あけていいか」
「うん、どうぞ」
僕的には100パーセントじゃないけど、そのプレゼントの中身には自信があった。
はっきりいって女の子の趣味はわからない。どんな物をプレゼントすれば空良は
喜ぶんだろう…とか思っていたけど、空良の性格は女子というより、どっちかというと男子寄りに傾いている。
本人を目の前にして言えないが…。女子の空良に男物のプレゼントを渡すワケにも
いかず、結局、僕は無難な品物で手を打った。
「なんじゃ、これは?」
「今の僕達がいる立場には必要かと……」
「高校受験必須マニュアルって…」
「その参考書、結構、役に立ってるよ。僕はもう全部 頭に詰め込んでいるから
空良にあげるよ」
「いらねーよ」
空良は不貞腐れた表情で僕に参考書を突き返してきた。
「前から聞きたかったんだけど、空良って学年順位何番くらいなの?
掲示板には載ってなかったみたいだけど」
「お前、それはイヤミか」
「……高校はどこ行くの?」
「この先にあるバス停からバスで20分いった木田山高校だけど」
え?
木田山高校って平均点30もあれば行ける高校だ。
最低レベルEランク。バカが集まる高校とも言われている。
「あ、お前…今、私のこと、バカだと見下したな」
「……いや、そんなことは…。だったら尚更、空良も頑張って
勉強しないと」
「今更、もがいてどうすんだよ。受かる時は受かるし、落ちる時は
落ちるんだって。運命に任せとけばいいだろ」
「運命に任せて努力しないと、ホントに落ちるでしょ」
僕は参考書を空良に突き戻す。
「わからないことがあったら、僕に何でも聞いて。力になるからさ」
「わかったよ秀才君。サンキュ、とりあえず受け取っとくわ」
「ちゃんと勉強しないとダメだよ」
「はいはい。じゃ、これは私から大地にお返しね」
そう言って空良は僕の頬に軽く唇を押し当ててきた。
え…!? ドキッ……
僕は照れることも忘れ、呆然と固まっていた。
「お互い、高校合格したら、ここで待ってる。二人でお祝いしような大地」
空良は僕の耳元で囁いた。空良の吐息が妙にくすぐったい。
空良は時々、ドキッとするような言動をする。
多分、僕は耳たぶまで真っ赤になっている。
空良はそんな僕のリアクションを見て楽しんでいるみたいだ。
僕が空良に視線を向けると、空良は大きく広がる青空を見て微笑んでいた。
なんだか空良が笑うと僕まで嬉しくなるよ。
ねぇ、空良…僕達はもう友達になれたのかな……。
それとも…友達以上かな……?
でも、僕は聞かなかった……確かめなかった……
多分、それは空良の答えが予測できたからだ。
空良は『友達』や『恋人』なんて言葉に縛られたくないんだよね。
それは自己満足にすぎないから。
だって空良はあの青空みたいに自由でいることが好きだから。
誰にも束縛されたくないんだよね。
それより、こうして2人一緒にいる時間の方が大切なんだよね。
僕はわかっていたよ。だって、僕と空良の価値観は似ている。
僕達は言葉で言わなくても同じ空を見ているだけで幸せだった。
空良と見る青空は今日もキレイだった――――――ーーー。
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