第8話 空白の時間
僕は何か大切なことを忘れているような気がしていた。だけど、僕の記憶は
あいまいで所々とびとびに抜けている。それがいつからなのか、はっきりと
覚えていないが、それは僕の人生にとってかけがえのない重大なようなきがする。
そう、人間の体で例えると心臓部分だ。
受験当日の前後の記憶がない―――ーーー。
学校帰り、僕は河川敷が見える土手を歩いていた。僕はいつもこの道を通っている。
だけど、この道は通学路ではない。今の高校からは遠回りになるからこの土手の先にあるバス停からバスに乗り継ぎ高校に通っている。
バス停に自転車を置いとけばいいのだろうけど、バス停に自転車置き場なんて
ないし、それに自転車だとゆっくり、こんな風に景色を眺めながら歩くことなんて
できない。僕はここから眺める景色が好きだった。
そう……
あの日も…確か、この道を通っていたような気がする。
そして、僕は誰かと出会った……気がする……
きっと、その人は僕を変えてくれた人だ……
多分…僕の一番大切な人……だったような気がする……
だけど、思い出そうとすると頭の中心部がガンガンと痛み出す。
もしかして、思い出してはいけない人なんだろうか?
僕に『忘れろ』と言っているのだろうか……
よくわからないもどかしさがある……。
その空白の時間がなんだか気持ち悪いくらいに胸の辺りがムズムズする。
僕が見渡す景色に人影は写っていなかった。毎日、通る道。
なぜ、僕はわざわざ遠回りまでしてこの道を通っているのだろう。
僕が忘れている誰かに会う為? でも、そんな人はどこにもいない。
穏やかに流れる澄んだ川に短く伸びた雑草。風が吹くと周りにある木の葉が揺れる。
だけどね、足が勝手にこの道に向かうんだ。
この土手から見渡す風景。懐かしい匂い。
何かを思い出すんじゃないかって少しは期待もしている。
また、ここにくれば出会えるような気がしていた―――ーーー。
なぜだか、わからないけど僕は気づいたらこの道を通っていた―――――ーーー。
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