思わぬ敵
「で、なんのゲームを買うつもりなんだ?」
俺は道を歩きながら、
「今話題の、ハムスターを世話するゲームだよ。育成ゲームなんだけど、癒されるし、可愛いから世界でも話題なんだって!」
と、大きい目を輝かせながらそう言った。こいつは、どのジャンルのゲームも
幅広くやる。MMORPG、育成ゲーム、格闘ゲーム、音ゲーム、ギャルゲーも、
なんでもやっている。それに、新作のゲームが発売されると、こいつはいつも
ネットで情報をくまなくチェックして、万全の状態で買う。
今回もネットで情報をチェックしてきたのだろう。予習は済んでいる様子だ。
「これね、ハムスターがすごい可愛いんだって。しかも、一匹だけじゃなくて、
二十匹くらい集めれば、お世話することも可能って書いてあった!」
「二十匹も世話できるのか? ゲームのシステム的には大丈夫なんだろうけど……」
「ゲームなんだし、大丈夫だって! もう、ほんとに雪斗は細かいところ気にするなぁ」
俺が疑問を尋ねると、軽く流されてしまった。俺はただ単に疑問を持っただけなのだが……。まぁいい。
「おーい雪斗と
ふと、後方から真白の声がした。振り向くと、真白が手をブンブンと横に振っている。
「あー悪い! 今日は
俺は真白に向き直り、そう謝った。
「ふーんそっか。ま、いーや。楽しんでこいよ! 買ったら俺にも遊ばせてくれ!」
真白は俺の答えに納得すると、笑顔でもう一度手を振って、見送ってくれた。
良い奴だよな、真白は。
「あぁ! 買ったらお前にも遊ばせてやるよ!」
俺は真白に向かってそう叫んだ。
「ほらほら、早く行かないと売り切れちゃう!」
「おい、分かったから引っ張んなって! 伸びるだろ……」
俺は
*
ゲーム屋につくと、もう人でごった返していた。
「流石に、発売日は混むなぁ」
「すみません、通して……」
「この場所、こんなに混むんだな。はぐれねぇように、注意しないと……」
俺たちはもみくちゃになりながら進んだ。これ、下手したら満員電車よりも
ひどいんじゃないか?
「あともう少しだから……頑張って!」
「お、おぉ……分かってるよ」
「あ、あった。最後の一個だ!」
「あ、ラッキー! 最後の一個あんじゃん!」
俺たちとは違う二人組が、そう声を上げていた。
二人組は、背が高く、大学生のようだった。
「まじでラッキーだったな、ツバキ!」
二人組のうちの片方、背が低い方がそう囃し立てた。
「悪いね。これは俺たちが貰っていくよ」
ツバキ、と呼ばれた背が高い男は不敵な笑みを浮かべ、そう言った。
「そんな……! 俺たち、ここまで頑張ってきたのに!」
「おいまだ諦めるのは早いだろ! す、すいません。俺たちも、そのゲームを
買いたいんです……」
俺は大学生らしき二人組に頼み込んだ。
「へ〜。君たちが? これって、ハムスターを飼うゲームだろ? まぁ、たしかに
君たちなんだか女々しい感じだし、格闘ゲームとかよりもこういうゲームの方が
お似合いかもね」
ツバキと呼ばれた男が、俺たちを馬鹿にしたように笑った。
……正直、気に食わないな。そんな言い方はしなくてもいいだろうに。
「あはは、言えてるなーそれ! こいつら、なんかなよっちいんだよな。特に、右の方!」
背の低い方の男が言う。
「え……俺?」
「悪い、声が小さすぎて聞こえなかったわ!」
「お前、それはさすがにひどいだろ。……ぷっ。あはは! でも、たしかに、右の方は声小せぇし、ハムスターっぽいんじゃねぇか?」
背の低い方が嘲笑し、それを背の高い方––––ツバキが、制止するかと思いきや、一緒になって笑ってやがる。
ふと、笑うのをやめたかと思うと、二人でチラチラこっちを見ながら何かを言い合っている。
「……なぁ、右のやつって、もしかして自分で小動物っぽいっていう自覚あるんじゃねぇか?」
「あぁそうだな。目もでけぇし、小さいし。……あっ、あのゲームもハムスターが主人公なんだろ? 『同類』同士で惹かれあったとか?」
「あー、それ、ワンチャンありそー!」
「それにさ、左の奴は、右のやつよりは体格良さそうだけど、こんな奴といっしょにいるんだし、どうせこいつも『同類』だろーな」
「うわーそれ言えてるわ」
こっちにワザと聞こえるように言いながら二人で笑っている。……俺や、俺の友達をそんなふうに言うとか、年上だろうがいくらなんでも許せない。俺のことは何を言われても構わないが、
「いいじゃないですか! 俺は、このゲームをやりたくて買おうとしてるんだし……。あなたたちには関係ないじゃないですか! もう突っかからないでくださいよ!」
自分より年上なのに、反論できるなんて、度胸がある奴だ。俺は、素直に
「あーごめんごめん」
「悪かったって。……ははっ」
しかし、二人組はまるで反省していないように、ヘラヘラしている。
「まぁ、
大人しく勉強でもしてればいーんじゃね?」
困っている
ダメだ、こいつらを見てると、無性にイライラする。
「よく言ったなユウ!」
背の高い方––––ツバキが、背の低い方––––ユウを小突き、二人でハイタッチをした。
……何やら相当仲が良いようだ。
「俺たちはさ、ほら、忙しい君たちと違って?
大学生はもう今は、春休みなんだよね〜。だから、暇で暇でしょうがないのよ」
ユウって奴がそう言った。いや、そんなこと俺たちには関係ない。
大学生が春休みだかなんだか知らないが、そっちこそ家でダラダラゲームなどせずに、旅行にでも行けば良い。
俺たちを馬鹿にされた––––元より、
「……なぁ、雪斗。もうゲームは諦めよう」
「おい、いいのかよ。あんなに欲しがってたじゃないか」
俺は慌てて
「もう……いいんだ。こうして僕たちのことを馬鹿にされるよりは、あの人たちが
大人しくゲームを買って帰ってくれればそれでいいんだ。ゲームはまた、買えば良いんだし」
でも、あいつらが勝ち誇ったように帰っていって、
俺は、もう一度ツバキとユウに向きなおり、静かにこう言った。
「あの……それ以上、俺の友達を……馬鹿にするの、やめてもらえませんか」
すると、背の高い方のツバキが、にやにやしながら言う。
「でもさ〜。ほらほら、君のお友達、泣きそうになってるよ?」
ハッとして、横を見ると、アイツの言った通り、
俺は、プツンとキレそうになったが、最後の理性をなんとか保ちながら、俺たちを馬鹿にする二人に向けて、一つだけ尋ねた。
「そんなに、俺たちを侮辱して、楽しいですか?」
すると、二人組は、ケタケタと笑いながら言う。
「はははっ、あーおかしーな、こいつら。侮辱してないじゃん。ただ、事実を
言っただけですけど?」
「そーそー! なのに、なにキレてんの?」
……だから、その態度が俺たちをバカにしてるって言いたいんだよ。
あーもうほんとにイライラするなぁ。もうこの場を去りたい気持ちでいっぱいだったが、視界の隅にレースゲームがあるのが見えた。
そうだ、良いことを思いついた!
俺は二人にツカツカと歩み寄って、言った。
「……そんなに、人をバカにしたいんならさ……あそこのレースゲームで、俺たちに勝ってから言ってくれないか?」
二人組はバッと後ろを向いた。そこには、ハンドルが据え付けられた
「はっ、お前なぁ、俺たちの方が年上なんだし、敬語使えよ!」
背の低い、ユウがそうバカにしたように笑った。
「そんな、人をバカにしてくるような人たちに、敬語なんて使いたくねぇよ。な、
俺は吐き捨てるようにユウに言って、
「えっ……あぁ、まぁそうだね」
俺は、
「お前さ、確かレースゲームも得意だっただろ? あいつらをこてんぱんにしてやれよ」
と、こそっと囁いた。
「えっ、でも……俺に、できるかな」
「でも、雪斗がそう言ってくれるのなら、俺頑張るよ!」
と、気を持ち直してくれた。
「よしっ、それじゃあ、やってやろうぜ! 俺も、応援するからさ」
俺と
すっかりやる気になってる俺たちを見て、二人組も何やら
「あいつらに負けてらんねぇな。しっかり見てろよ、ユウ」
「おぉ、ツバキの腕前を見せてやろうぜ」
と、息巻いている様子だ。
……こいつらは、どうやら
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます