雪遊び

『とりあえず、これから三十分後に空き地に集合しようぜ!』


 真白がそうメッセージを送ってきた。まぁ、厚めな服を二枚重ねて着てるし、その上にコート、マフラーと手袋までしてるので防寒対策はバッチリだろう。


「ちょっと、これから空き地で真白たちと遊ぶことになったから」


 と、母さんには声だけかけておいた。


「あらそうなの? でも、もう高校生にもなって雪遊びなんて……」


 母さんは洗面台に向かって化粧をしていた手を止め、少し眉をひそめながら俺に言った。まぁ母さんにしてみれば高校生にもなって雪で遊ぶなんて、いい歳して何を考えているんだって思うだろうなぁ。


「まぁとにかく、雪遊びするならできるだけ暖かくしなさいよ。風邪でも引いたら大変だし」


 母さんは、俺に口酸っぱく注意しながら、化粧を続けていた。

防寒対策は一応しっかりしているつもりだ。俺は玄関のドアを開け、外に一歩踏み出した。


「……さむっっ!!」

「そういえば、ちょっと前からまた雪が降り出したって天気予報で言ってたわよ。

それでも行くの? やめておいたら?」

「え、ちょっとそれを早く言ってくれよ!」


 外に一歩踏み出した途端、とてつもない寒さが俺を襲ってきた。急に冷蔵庫の中に身体ごと突っ込んだみたいだ。後ろから母さんの声が聞こえる。ちょっと前から雪が降り出したのなら、それを早く言って欲しい。


 まぁ今更俺が『やっぱり行くのやめるわ』って言ったら、あいつら怒るだろうな。


「……俺、もう行くわ。ここまできて、やめることはできないし」


 俺は母さんの制止を振り切り、そう言った。


「そうなの? じゃあ、なるべく早く帰ってきなさい」


 母さんは呆れたように俺にそう言い残して洗面所に去っていった。


 まぁこの寒さだったら、嫌でもなるべく早く帰ってこようと思うけどな。

しかしこの寒さは、ちょっと尋常じゃないぞ。一歩足を踏み出すごとに、冷たい風が顔を殴るように吹いてくる。おまけに、風の中に雪の粒も混じってるらしい。顔に雪の粒が当たって冷たい。……何コレ。もはや雪が降ってるっていうより、吹雪いてるって言った方が正しいじゃん。


 俺はそう思いながら、空き地へと足を進めた。


「おっす、雪斗」

「吾輩の読み通り、ここは白き魂が溢れかえっているな」


 空き地に足を踏み込むと、真白と白澄が待っていた。

 ……相変わらず、白澄は厨二病っぽいことを言っている。まぁ白澄に関しては、これが通常モードなのだろう。それに、防寒対策はしているようだが、顔がすごく青白いし、クマができている。これも、白澄の通常モードだ。正直キャラ作りとも思ったが、これが彼にとっての普通なのだ。


「早く遊ぼーぜ! 何する? 雪だるまでも作るか?」


 真白が小学生のように無邪気に言った。


「小学生かよ……。まぁでも、雪だるまを作るのも長年やってなかったし、良いかもしれないな」


 俺は真白に同意した。


「雪人形を生成するのか……。さて、どんな材料で生成してやろう」

「雪人形って言ってるんだから、材料は雪一択だろ」


 白澄はどうやら雪だるまを作るのに、どんな材料で作ってやろうかと思案しているようだったが、俺はすかさずツッコんだ。正直雪だるまっていう名前なんだから、使う材料は雪しかないと思うし。

ていうかそもそも、雪だるまのこと雪人形って言うなよ。同じようなものだとは思うけど。


「はははっ、雪人形はウケるな。まぁ何はともあれ、雪だるまを作ろうぜ」


 真白が俺と白澄のやりとりを見てウケている。

とりあえず、雪だるまを作るには雪玉を転がさないといけない。雪玉を上手に転がして、それを三個作らないといけない。


「まずは、雪玉を三個作らないといけないな。さて、まずは雪玉を転がそう」


 真白はそう言って、手近にある雪を転がし始めた。正直雪遊びに慣れてもいない俺たちが、どうやって雪玉を転がすんだ……と思っていたのも束の間、真白はあっという間に小型犬くらいの雪玉を作っていた。


「おぉ、お前、器用だな!」

「流石の手際だな」


 俺と白澄は口々に、真白に賞賛を送った。


「へへっ、ネットで調べといたんだ。雪だるまを作るには、どうすればいいのかっていうのをね」


 ちゃっかりネットで調べてから来るなんて、ちゃっかりしている奴だなぁ。

俺もそういうの、調べてから来れば良かったかな。


 俺が少し後悔していると、真白はあっという間に雪玉を三個も作っていた。


「ほら、もう雪玉作っちゃったぞ。あとはこれを積み重ねるだけだ」

「この塊を人形に生成するのか。これは我に任せておけ」


 白澄は、一番大きい雪玉を地面に置き、それから中くらいの雪玉をその上に置いた。

そして一番小さい雪玉を上に乗せる。

……こいつも、雪だるまを作るのが上手いな。こいつもネットで情報を拾ってきたのか?


「白澄、お前も雪だるま載っけるの上手いな。さては、お前もネットで調べてきたクチか?」


 俺は白澄にそう尋ねた。


「いや、吾輩は機械の板には頼らん。吾輩はまだ幼かった頃、極寒の地に居を構えていたことがあってな。そこで、このような雪人形を生成したことがあるのだ」


 白澄がそう言う。極寒の地に居を構えるって……おそらく雪が降る地域に住んでたってことなのだろう。しかし、白澄がこんなに雪だるまを載せるのが上手いとは知らなかった。雪が降る地域で暮らしていたのなら、雪だるまを作るのが上手いことも納得がいくけど。

俺がそう思いながらぼーっと眺めていると、白澄が声をあげる。


「完成したぞ」


 雪だるまの出来栄えを見て、真白が歓声をあげた。


「おぉ、ちゃんと目と口もついてる! 可愛らしい雪だるまになったな」

「こいつの目と口は、そこらにあった黒々とした石を拝借したものだ」


 白澄が真白にそう説明する。


「そうだったのか。じゃ、あとは枝を拾ってきて、こいつの手足にしないとな」


 真白がそう言って、枝を探し始めた。


 ……それにしても、この空き地って結構雪積もってるな。それに、枝っていったって周りに木があるわけでもないし、無理なんじゃないか?

俺はそう思いながら、枝を探す真白をボーッと見ていた。


 ……そうだ! 俺は、『あること』を思いついた。

近くにある雪を、玉型に成形して、真白に投げつける。


「痛てっ! おい、急に雪玉を投げつけるなよ! 今の完全に不意打ちだったぞ⁉︎」


 真白はよほど予想もしてなかったのか、素っ頓狂な声をあげる。

真白の情けないところが見れたので、良しとしよう。


「ははっ、完全に油断してたな? ……って、痛っ⁉︎」


 俺は真白のことを笑ったが、急に後ろから雪玉が投げつけられた。

慌てて振り返ると


「くくく……完全に油断をしていたな、我が友よ。隙を見て、吾輩の白き闇の魂たちが、お前の背後を狙っていたぞ。以後、気をつけるが良い」


 白澄が、俺をみてこの上ない邪悪な笑みを浮かべていた。

こいつもやっぱり、雪遊びを完全に楽しんでるじゃないか。


「じゃあ俺も負けていられないな。お返しだ!」


 真白が雪玉を俺に投げつけてきた。

さっきから俺への被害が多くね? なんか白澄が雪玉投げてきたし……

真白が今投げてきたのは、確かに俺が悪かったからしょうがない気もするけど。


「吾輩も、この遊戯に興じてやろう。白き闇の魂たちよ、あいつを呑みこめ」


 白澄が、雪玉を投げつけてきた。


「俺に向かって、投げすぎだろお前ら! よし、俺も仕返しだ!」


 俺も白澄と真白に雪玉を投げつける。いつのまにか、俺たちは三人とも雪合戦に

夢中になっていたのだった。


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