第10話
モデルとして活躍する上で報道されれば炎上案件だし、名前が知れてると悪い考えを持つ人に狙われるかもしれない。
そんな悪い考え方を悶々とさせながら瞳を開いてみてみれば、
「それはね、お嬢があたしを助けてくれたからよ」
笑顔でそう答える。
「助けて……?」
「正確にはお嬢のお父様だけどね。あたし容姿が整ってるらしくてさ僻みは酷いし結構中学の頃浮いてたの。で、更に家庭事情も酷くてさ父さんは毎日働かずに飲んだくれ、母さんは毎日男と浮気。で、売られそうになったところをお嬢のお父様が買ってくれたの」
渡り廊下の柱を背もたれにして空を見上げる蝶野の目は少し冷たくなっていて、でも同時に懐かしんでいる感覚もある。
「初めは怖かったけど、お嬢の遊び相手とか武術習ったりとかして過ごしててたまに抗争とかにも行ってさ。でも慣れなかった頃は辛かった、でもお父様やお嬢が組の人が支えてくれた。だからあたしは今ここにいる」
背もたれにしてた柱から体を離し、彩華の前に歩み寄って肩をポンっと叩かれる。
彩華を含め、黒紅組の人たちを見る目はとても優しくて今が幸せなんだと思い知らされる。
「彩華も、入って良かったって思う日が必ず来るわ」
それじゃあ授業があるから、とまた肩をポンポンとした後校舎の方へ向かっていく。
少し放心していれば、黒紅達がどうしたのか心配そうな目で見てくる。
(あんなふうに、思える日が来るのかな……?)
それならどんなに幸福なことだろう。
それならどんなに楽しいのだろう。
それなら――
(そんなの、無理でしょ)
「……かちゃん!彩華ちゃん!!」
「むえっ」
頬をムニュっと手で挟まれ、強制的に黒紅と目が合う。
「どうしたの?やっぱり色々いきなりだから体調崩した?保健室近いから行く?あ!僕風邪薬とか持ってるよ!」
湊ちゃん!美羽!連れてくの手伝ってーと黒紅が言えば二人は楽しそうに彩華の背中を後ろから押した。前からは黒紅が小さな手で引っ張ってくれている。
「……ヤクザって感じ、しないなぁ」
「ん?なんか言った?」
ボソッと呟いた言葉は風にかき消され三人の耳には届かなかった。でもそれでいい、
「なんでもない、早く授業受けたいから案内、してくれる?」
口角が自然と上がる。
笑ったのなんて久しぶり過ぎて笑い方を忘れていたようだ。組入りして笑っていられるなんてきっと異常になってしまったんだろうと考える。
(それでも、昔よりいいかも)
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