第6話

 黒紅の蹴りが頭を掠める。

「うるさい!これから勝つんだから騒ぐんじゃねぇ!」

 つい口が悪くなる。

 正直焦っているのだ、勝機が一ミリも見えないこんな状態ではヤクザ入りするしかないのかもしれない。

「ほらほら、当たっちゃいなよ!それで僕たちと楽しく過ごそうよ!お金だって力だってある、今までの君の苦労全部無くしてあげるから!」

 蹴りや突きを的確に急所目掛けて狙ってくるのを避けるのに精一杯。

 後ろには壁が迫っていたので横に逃げようとするが黒紅の回し蹴りがそれを許さない。

 (くそ、くそ!こんな奴に負けてたまるか!)

「ズェリァァァ!!」

 蹴りを流した竹刀を勢いよく振り上げた。

 が

「そこまで!!」

 赤石の声に竹刀が止まる。彩華の喉元にほんの一ミリにも満たない程の簪が刺されていた。

「勝負あり、だねぇ?」

「簪なんていつの間に……!?いやそんなのどうでもいい!私は組入りなんてしな……!?」

 体が麻痺して膝から崩れ落ちる。何が起こっているのか全く分からない。

「なに、仕込んだ……!」

「コノトキシン、麻痺毒をちょっとね。負けても暴れると思ったから仕込んでおいたよ。さてさて〜美羽ー!アレ持ってきて〜!」

「ん」

 彩華の近くに美羽と呼ばれた女の子と赤石が駆け寄ってくる。

 意識ははっきりしていて手に、指に何か付けられる感覚がする。赤石に支えてもらいながら見る指には朱肉が押さえつけられてた。

 それを美羽が持っていた書類に押し付けられた。何をしているのか分からない。

「じゃじゃーん!契約完了!これで正式に彩華ちゃんは黒紅組の組員だよ!後でコピー渡すからね〜!赤石、彩華ちゃんを部屋に連れて行ってて!」

「はいはい、駒使いの荒いことで」

 そう言いながら彩華をお姫様抱っこする。

「ちょ!?離せ、この、動けない……」

「安心しろ、お嬢のことだから少ししか毒は入ってねぇよ」

 よっと軽いな、と言いながら赤石は彩華を連れて稽古場を出てしばらく廊下を歩く。

「私に何させようってのよ」

「何って、単純にお嬢が気に入っちまったから組入りさせられたんだよ。ていうかお前ほんとに軽いな?ちゃんと食べてんのか?」

「……ちょっとくらい食べなくても平気だし」

 

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