第3話 超常現象サークル、活動開始

「これはフェイク写真ではないんですか?」

 氷森豪樹は辰美澪に問う。

「調べてみたけど、フェイクじゃないみたい。それにaXアックス(SNS)にポストしている人もいたり、ネット掲示板のUチャンネルにもスレッドが立てられていて超常現象界隈ではなかなか騒がれているんだ。」

 少々早口になりながら澪は説明する。

「へー、でもさやっぱりフェイク臭いんだよなあ。」

 稲手天は呟く。

「確かに写真しかない時点で怪しいけども、この写真に捏造された形跡は無かった。だから私は本物だと信じたい。」

 澪の目は輝いていた。

「お、熱心に活動してるねえ。」

「おはようございます、八橋先生!」

「おはようみんな。」

 部室に現れたのはこの超常現象サークルの担当顧問、八橋湧作だ。

「おはようございます、やばたん、いや、やばたにえん!」

「おいおい、稲手。普通に呼んでくれ。来年就職活動なんだし今のうちに言葉遣い直しとけよ。」

「しゅう…しょく…、うっ…。」

 銃弾にでも撃たれたかのように胸を押さえる天。

「おはようございます、八橋先生。」

 ふざける天に対して、至って真面目に挨拶をする澪。

「ところで君たちは何を見ているんだ?もしかして例の巨人と鎧の戦士のやつか?」

「はい。流石先生、もう情報仕入れているんですね。」

 笑顔で澪は言う。

「これくらい朝飯前よ。で、どうするんだ?それの調査に行くのか?」

 湧作は3人に問う。

「え、先生連れていってくれたりするんですか?」

 豪樹はちょっと嬉しそうに言う。

「そうなんですか、先生?」

「出来ればお願いしたいところですが…。」

 天と澪も湧作に対して言う。

「何だ、いつの間に俺が連れていくことになっているんだ?」

「先生も見に行きたいですよね?もしかしたら痕跡が残っているかも…。」

 にんまりして天は言う。

「稲手の場合は、調査よりも出かけることが楽しみなだけだろ?」

「先生、お願いします。都合が合う日で良いので。もしかしたら出会えるかもしれませんしどうか…。」

「分かった。じゃあ今度の日曜日、俺の車で行こう。」

 サークルのリーダー、澪の熱意に押されて湧作は決断した。

「ありがとうございます!」

 3人は先生に感謝の言葉を述べた。


 一方、雄代海十は日本海で海釣りを楽しんでいた。鹿角で拾った秋田剣と共に。

「しかし、まさか海十が私に協力してくれるとは思っていなかったよ。」

 秋田剣は言う。

「だって、喋る剣なんて滅多に会えないじゃん?俺が拾ったのも何かの縁、刺激的な生活が送れそうな気がしてね。」

 釣りをしながら海十は語る。

「普段の生活に不満があるのか?」

「ああ、実は俺高校でいじめられててさ、友達がいないんだよね。小中で仲良くしてた奴もいたけど進学で疎遠になっちゃった。」

 海十は言う。彼は涙が出るのをこらえ、平静を装っているようにも見えた。

「私も似たようなものだ。私は2000年以上前に作られて今の時代に復活したから友達はいない。当時私と共に戦った仲間は皆寿命を迎えて亡くなってしまった。人間は数千年も生きられないからな。」

「俺たち似た者同士だな。」

 海十は少し微笑んだ。

「見つけたぞ、秋田剣。」

 そこへチェーンソーを持った大男が現れた。

「お、お前は…?」

 驚いた表情の海十。

「奴が郡神の1人、山本郡神グンジュンサだ。」

 秋田剣は海十に説明する。

「お前が秋田剣を拾った人間か。人間もろとも消し去ってやる!」

 グンジュンサはチェーンソーを振りかざして海十と秋田剣の方へ向かってくる。

「どどどうしよう…。」

「海十焦るな。教えた通りに操作して変身だ!」

「分かった!」

 海十は秋田剣の刀身にナンモネシノクニカードをかざす。

『Blank,Nanmone!』

 剣から音声が流れ、海十はシノクニクス ナンモネへと姿を変える。

「はああ!」

 ナンモネは秋田剣を振るい、果敢に立ち向かう。しかしグンジュンサに軽くあしらわれてしまう。

「やっぱり弱いな。人間ごときが郡神に勝てる筈も無い!」

 グンジュンサはチェーンソーでナンモネに対し連続攻撃を行う。

「うわあ!」

 何度も何度も攻撃を受け、シノクニクスのアーマーはボロボロになっていた。

「ここは一時撤退だ、奴は強すぎる!」

 秋田剣はナンモネに訴える。

「いや、まだまだ…!」

 それでも海十は諦めなかった。何度攻撃を受けても立ち上がり、立ち向かってはまた倒され…の繰り返しである。

「もうダメだ海十、離脱するんだ!」

 何度も秋田剣はナンモネに忠告する。

「まだだ!」

「何故君はそこまで頑張れる?勝ち目が無いんだぞ?」

 秋田剣はナンモネに問う。

「勝ち目が無いと決め付けたら負けてしまう。いつか勝てると信じて当たっていく。それに俺はいじめられてばかりで何も出来なかった、何も変われなかった自分と決別したいんだ!」

 ナンモネこと海十の熱い思いが奇跡を起こす。

「ん?このカードは?」

 ナンモネの目の前に青いシノクニカードが出現した。

「これはシノクニカード!海十の思いがこのカードを生み出したんだ!」

 秋田剣は嬉しそうに言う。顔が無いので表情までは伺い知ることは出来ないが。

「さあそのカードを使え!」

「よっしゃ!」

 ナンモネは青いシノクニカードを秋田剣の刀身にかざす。

『Blue,Aquakosui!』

 剣から音声が流れ、シノクニクス ナンモネは青いアーマーを身に纏い、秋田県の海や湖、川の力を司る「シノクニクス アクアコスイ」に変身した。同時に片手剣モードだった秋田剣は大剣モードへと形状変化した。

「何だその姿は?2000年前にこの形態は存在していない!」

 グンジュンサはかなり驚いている。

「勝ち目が無いと決め付けたら負けてしまう。いつか勝てると信じて当たっていく。そういうことだ!」

 アクアコスイは言い放つ。

「ちょっと見た目が変わって強くなったつもりか?これでも食らえ!」

 グンジュンサの周りにバスケットボールが生成され、それがアクアコスイに向かって飛んで来る。

「そんなもの、この太刀で一振だ!」

 アクアコスイは秋田剣を振り回してボールを破壊した。

「何!?こうなったら、これはどうだ!」

 グンジュンサが地面に手をかざすと、ヌメヌメの地面に変化した。

「す、滑る…。」

 滑りやすい地面に苦戦するアクアコスイ。

「ただ滑るだけではない。そこにあるじゅんさいは爆弾になっている。踏んでしまえば一溜りもない。」

「くそっ、あ、そうだ!」

 アクアコスイは何かを思い付き、秋田剣を振るう。すると大きな波が発生してヌメヌメの地面は元に戻り、爆弾は取り払われた。

「…俺様を怒らせちまったようだな…!」

 グンジュンサはチェーンソーを2本出現させ、エネルギーを溜める。

「こっちも行くぞ!って秋田剣、どうやるの?」

「必殺技はだな…。」

 秋田剣はアクアコスイに発動方法をレクチャーする。

「よっしゃ、今度こそ!」

 アクアコスイはシノクニカードを再び刀身にかざす。

『Aquakosui,finish charge』

 剣から音声が流れ、必殺技待機状態に入る。

「木都回転刃!」

 グンジュンサは2本のチェーンソーから斬撃を飛ばす。

「は!」

 アクアコスイは2本の斬撃をかわし、飛び上がる。そしてグンジュンサの脳天目掛けて太刀を下ろした。

「シノクニディバイド!」

 アクアコスイの必殺技が決まった。

「ぐわああ!」

 グンジュンサは真っ二つに割れ、粒子となり消滅した。

「やった、勝ったぞ!」

 アクアコスイは変身を解除して子供のように喜んだ。

「やったな、海十。」

「ああ。」

 海十はにっこりと笑った。


 一方、超常現象サークルの4人は鹿角市花輪の現場に到着していた。

「さて、調査開始よ!」

 澪は声高らかに言う。

「ミオミオは普段はクールなのに、こういう時になるといつも張り切るよな。」

「分かります。面白い先輩ですよね。」

 天と豪樹は澪の様子を観ながら話をする。


《この話の登場人物》

・辰美澪

・稲手天

・氷森豪樹

・八橋湧作

・雄代海十→秋田剣を用いて「シノクニクス アクアコスイ」に変身を遂げた。

・秋田剣

・山本郡神グンジュンサ→能代市、山本郡の力を使う郡神。シノクニクス アクアコスイに倒された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る