第2話 郡神の出現

 ここは鹿角市花輪。市街地に5体の郡神こおりのかみが降り立った。熊の毛皮で出来たローブを羽織り、猟銃を持ったマタギのような出で立ちの大男は言う。

「我は北秋田郡神きたあきたのこおりのかみグンチドリ!」

 ヌメヌメとした質感のローブを羽織り、右手にはチェーンソーを持って頭部はハタハタ、魚人ともいえる大男は言う。

「俺様は山本郡神やまもとのこおりのかみグンジュンサ!」

 藁のような質感のローブを羽織り、日本神話に出てきそうな剣を持って頭部は竜、さながら龍人ともいえる大男は言う。

「おらは南秋田郡神みなみあきたのこおりのかみグンハチロウ!」

 まなぐ凧のような模様が入ったローブを羽織り、仙人のような杖を持ちながらも見た目はさながら小野小町である大女は言う。

「わらわは雄勝郡神おがちのこおりのかみグンコマチ!」

 花火柄のローブを羽織り、弓を持って大きな兜を被っている大男は言う。

「拙者、仙北郡神せんぼくのこおりのかみグンニテコでござる!」

「我ら郡神!」

 5人はグンチドリの声に合わせて、戦隊のように一斉にポーズを決める。

「…って1人足りねえぞ!誰だ来てないやつは、だらしない!」

 グンジュンサはキレ気味に言う。

「確かに。グンナンブいねな。どごさ行ったんだべ。」

 グンハチロウは呟く。

「気配を感じない…。まさかあいつだけ復活してない?」

 グンナンブの気配を探っていたグンコマチは言う。

「グンナンブなら既に倒した。」

「貴様は…シノクニクス!」

 グンニテコは『シノクニクス ナンモネ』の出現に驚愕する。因みにこの『シノクニクス ナンモネ』は人間の力を借りずに秋田剣自らの力で作り出したものなので、人間がシノクニクスに変身した時と違って戦える時間に制限がある。

「久しぶりだな、郡神たちよ。」

 ナンモネは郡神に言う。

「やはり、我らの復活はシノクニクスの復活。我らの計画を進める為には障壁となる存在だ。いち早く消し去る必要があるな。」

 グンチドリは冷静に言う。

「だったらここは俺様に任せろ。ちゃっちゃとシノクニクス倒してやる。」

 グンジュンサは武器のチェーンソーを持って前に歩み出る。

「一度私に負けたお前が、私に勝てるとでも?」

 ナンモネは秋田剣を構える。

「忘れたかシノクニクス。俺様たち郡神は時代に合わせて姿や能力を自由に変えることが出来る。勿論チェーンソーは2000年前に無かったが、俺様がこの時代のチェーンソーの力を取り込んだことで使えるようになった。」

「お前がどんな姿になっても私は負けない!」

「ほざけ!俺様は最強だ!」

 グンジュンサはチェーンソーでナンモネに斬りかかる。ナンモネはチェーンソーを秋田剣で受け止めた。

「はああ!」

 ナンモネはチェーンソーを押し退け、秋田剣で攻撃しダメージを与える。

「だったらこれはどうだ!」

 グンジュンサがチェーンソーを掲げると、グンジュンサの周囲にバスケットボールが生成された。

「終わりだ!」

 バスケットボールがナンモネ目掛けて飛んでくる。

「うわあああ!」

 何個かのボールは秋田剣で真っ二つにしたナンモネだったが、数の多さに避けきれずダメージを受けた。

「トドメだ、呆気なかったな。」

 チェーンソーを引き摺りながら歩み寄るグンジュンサ。しかし…

「うっ、まだ完全に力は戻っていないか…。また今度だ。運の良い奴め。」

 復活して間もなくの戦いだった為、力が戻っていなかったグンジュンサは姿を消した。

「我らも行こう。」

 グンチドリの指示により、本人含め残り4人も姿を消した。

「危なかったな。」

 その時、ナンモネの体が消え始める。

「時間切れか。」

 ナンモネは消滅し、秋田剣は地面に落ちた。そこへ通りすがりの1人の青年がやって来る。

「何だこれ?」

 彼は秋田剣を拾い上げた。

「私は秋田剣。君の名前は?」

「うわあ!剣が喋った!」

 青年は驚きの余り、秋田剣を落としそうになる。

「驚かせてすまない。」

 陳謝する秋田剣。

「あ、俺の名前は雄代おしろ海十かいと、釣りが趣味の高校生だ。よろしく。」

 青年、雄代海十は秋田剣に自己紹介をする。

「よろしく。早速だが、君、私と共に戦わないか?」

「戦う?」

「そうだ。」

 シノクニクスは人間が秋田剣を使って変身した状態の方が安定した力を出すことが出来る為、秋田剣は雄代に協力を持ち掛ける。


 そして所変わって、ここは秋田工業大学。秋田県秋田市にある、学生数およそ2000人の私立理系大学だ。この大学には小さいながらも元気に活動をするサークルが存在する。それは「超常現象サークル」だ。3年生2人、2年生1人の計3人の小さなサークルである。この日もいつものように部室で自由に活動していた。

「おっはよー!あ、ヒモリッチもう来てたんだ。って、何聞いてんの?」

 高めのテンションで部室にやって来たのは、工学部3年システム学科、金髪ロングの一見ギャルギャルしい彼女こそこのサークルの副リーダー、稲手天だ。来るやいなや、イヤホンをして音楽を聴いていた後輩・ヒモリッチのイヤホンを勝手に取る。

「あ、稲手先輩!おはようございます。いつから来てたんですか?」

 後輩・ヒモリッチこと彼の名前は工学部2年機械学科の氷森豪樹。このサークル唯一の男子学生にして平メンバーである。そらからは「ヒモリッチ」とどこぞのサッカー選手のような名前で呼ばれている。

「音楽に没頭し過ぎだぞ、ヒモリッチ。今来たんだよ~。」

「気付かなくてすみません。」

「良いんだよそんなに真面目に謝らなくてもさ。ところでさ、何の曲聴いてたの?」

「『秋田らしい水稲のファーマーズ』の『中秋に稲刈る田んぼ』です。この曲、ミュージックビデオのダンスも含めて好きなんですよね。」

「秋田らしい水稲のファーマーズかー。あたし『ヨナカブル』しか知らないな。今流行りの雪寄せダンス、TikkuriTokkuriでよく見るんだよね。」

 ここで少々置いてきぼりになり始めているであろう、読者に説明しよう。「TikkuriTokkuri」とは秋田の若者の間で人気を博している、ショート動画を上げられるSNS。そして「秋田らしい水稲のファーマーズ」とは『歌い踊る農家コス 生産者秋田代表』 SAKURA、SUBARI、NONO、MITSUの4人からなる『コンバインや手作業で稲植えていく』パフォーマンスグループ。今年の種苗交換会では『INEUETEKU』というタイトルで大バズり曲『ヨナカブル』や『中秋に稲刈る田んぼ』などのライブパフォーマンスを行った。他にも様々な楽曲があり、『Saimyouji Guriptnite』、『マ人公園』、『Sanno Working』…説明はこれくらいにして物語の方に戻ろう。天に遅れること数分、サークルのリーダーが部室にやって来た。

「おはよう。」

 ウルフカットで丸メガネ、クールな優等生キャラの彼女こそリーダーの辰美澪。幼馴染みの天と同じくシステム学科の3年だ。

「おはようミオミオ!」

 天は澪のことをどこぞの水星人のように「ミオミオ」と呼んでいる。

「おはようございます、辰美先輩!そういえば前から思っていたんですけど、辰美先輩って秋田らしい水稲のファーマーズのSAKURAに似てますよね。」

 豪樹はスマホで澪にSAKURAの画像を見せる。

「確かに、何となくミオミオに似てる!」

 笑いながら天は言う。

「ちっとも似てないよ。そんなことより、面白いものを見つけたんだけど。」

 似てる似てないのくだりをさらっと流し、澪はパソコンを操作する。

「面白いものって何ですか?」

「気になる気になる!」

 豪樹と天は澪のパソコンを覗き込む。

「鹿角に現れた巨人の集団、そして剣を持った謎に満ちた鎧の戦士。」

 澪のパソコンには5体の郡神とシノクニクスが映っていた。


《この話の登場人物》

・北秋田郡神グンチドリ

・山本郡神グンジュンサ

・南秋田郡神グンハチロウ

・仙北郡神グンニテコ

・雄勝郡神グンコマチ

・秋田剣

・雄代海十→釣りが趣味の能代市在住の高校2年生。たまたま鹿角市を訪れていたところ、秋田剣を手にした。

・氷森豪樹→天からは「ヒモリッチ」、澪からは「氷森君」と呼ばれている。

・稲手天→豪樹からは「稲手先輩」、澪からは「天」と呼ばれている。

・辰美澪→豪樹からは「辰美先輩」、天からは「ミオミオ」と呼ばれている。

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