第9話 カメラマン
フリーのカメラマンである栗田は出版社から依頼を受けて、いろいろな写真を撮っている。今回はバイク雑誌から、6ポスト周辺で写真を撮ってほしいという依頼を受け、SUGOにやってきた。
土曜日の予選は晴れたので、いい画が撮れた。直線から右のターン、マシンの倒し込みがうまいライダーは速い。とりあえず出版社に送る最低限の画は撮れたので、あとはスクープねらいだ。接触・転倒ねらいだ。6ポスト近くでシャッターチャンスをねらう。ここにいると、ポストの無線も聞こえてくるので、情報が入りやすい。レースの合間にはポスト員と会話もできる。それに簡易トイレがあるので、ポジションとしては悪くない。他のカメラマンはレースに応じて、ポジションを変えているが、今回は6人のカメラマンで分担している。さすが、専門のバイク雑誌は力の入れ方が違う。
決勝日はくもりだ。画としては昨日の方がいい。今日もスクープねらいだ。今日も6ポスト近くに陣取ると、顔なじみになったポスト員が声をかけてきてくれた。
「今日もよろしくお願いします。今日は何かあると思っていますか?」
「いえ、そんなことはないですけど・・あったらあなた方が大変でしょう」
「そうですね。でも、何もないと仕事をした気がしない時がありますけどね」
「だからと言って、何度もあったらいやですよね」
「そうですね。5ポスト近くまで走ると疲れますからね。できるなら、この近くでやってほしいですね。あっ、これは不謹慎かな」
「皆、思っていることだと思いますよ。がんばってくださいね」
「ただ見ているだけですめば、いいですけどね」
と、そのポスト員は所定の場所に立った。
J-GP3・ST600・ST1000は無難に終わった。いよいよメインのレースのJSB(スーパーバイク)だ。啓介は何かありそうな予感があった。
1周目からランキングトップの中嶋が独走を始めている。芸術的なコーナリングをしているが、もう何度も撮った画だ。アップで撮りたいのだが、なかなか難しい。
20周目、中嶋が周回遅れに追いつきそうになっている。ポストからはブルーフラッグの指示の声が聞こえる。抜く瞬間を撮りたかったが、6ポスト前では抜けなかった。
中嶋を見送った後に、「ガシーン・ガシャーン」という音が近くで聞こえた。接触・転倒だ。その瞬間を逃した。せっかくのチャンスだったのに・・と思いながら、グラベルに入ったマシンを追いかけると、コースオフィシャルが走り寄る。顔なじみの彼も真っ先に向かっている。マシンが起こされ、安全地帯に移動される。そこで、ライダーがマシンにまたがり、走り出した。(大丈夫か?)と思いながら、そのマシンを追った。すると、次のコーナーで白煙を噴いた。その画は撮れた。もしかするとオイルを噴いたかもしれない。すると後続のマシンの転倒? と頭をよぎったが、瞬時にオイルフラッグが振られ、後続車はスピードをゆるめている。そして、レース中断のレッドフラッグ。レースが終わったと思った。オイル処理に時間はかかるだろう。ましてや、太陽が出ていないのでうす暗くなっている。もうこれ以上、画は撮れない。と思いその場を立ち去った。オイル処理をしているオフィシャルは一生懸命にコース整備をしている。ぞくぞくと人が増えている。
メディアの控え室にもどると、半数以上のカメラマンが戻ってきている。来ていない仲間は表彰式やキャンギャルの撮影をしている。主任がいたので、撮影した画をPCで見せる。主任はザーとスクロールして見ている。最後の方で止まった。
「これ、いいね」
と言ったのが、白煙を噴いたマシンの画だった。
「これ、コラム欄で使えるかもしれないよ」
と言われた。メインのページではないが、レースを知ってもらうコラムページがあるので、そこに掲載されるかもしれないと思うと嬉しかった。
「これも使えるんじゃない?」
と言われたのが、コースオフィシャルがオイル処理をしている姿だった。その真剣な顔にひかれて撮った画だが、これもコラム欄で使えるらしい。
これにて任務終了。
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