第4話 チーム監督兼メカニック

 信也はバイク販売店を経営している。でも週末はレースにきて、チーム監督とメカニックをしている。チーム名は、ブルーアイランド。青い島という意味だが、名字を英語にしただけだ。マシンはY社を使っている。スポンサーは地元のラーメン屋さんとか喫茶店とか、商店街のメンバーが助けてくれている。メインスポンサーがいないので、資金ぐりは大変だ。でもエースの竹本は、今年ST600クラスでトップ争いをしている。チーム全員が盛り上がっている。と言っても5人しかいない弱小チームだが・・・。

 チームの構成は

 エースライダー 竹本浩二  28才 ふだんは配送の仕事をしている。

 サブライダー  青島孝太郎 20才 今年からJP250に参戦している。ふだんはバイク店店員。チームでは雑用係。信也の長男である。

 メカニック   辛島信二  33才 バイク店店員。メカ担当。

 マネージャー  青島裕美  23才 信也の長女である。

 監督兼メカ   青島信也  48才 バイク店店長。竹本と知り合ってからチームを作ってレースに関わっている。


 さて、今回のSUGOでのレース。店から50kmのところにあるので、ホームコースである。全日本に参加する前の地方戦でさんざん走ったコースだ。竹本も得意とするコースで、特にシケインの走りが断然速かった。

 1時40分からのST600決勝。竹本は予選3位からのスタートだ。予選時のタイヤはソフトだったが、決勝はミディアムにした。朝露はでたが、昼時は気温があがると思われたからだ。ブレーキは竹本の要望で強めにしている。いざという時にブレーキ勝負をしたいということだった。

 レースはスタートダッシュで、2位に上がった。というか2位のライダーがミスったのだ。そのまま縦1列でレースはすすんだ。2台のトップ争いとなっている。

 ファイナルラップ。それも最後のシケインで竹本が勝負をかけた。シケイン入り口でアウトに並び、ブレーキタイミングを遅らせた。相手は出口で立ち上がり勝負をしかけるために竹本の後ろにつく。10%の登り勝負だ。竹本も負けじとアクセルをあける。

 フィニッシュラインではタイヤ一つ分勝った。これで、ランキングトップに並んだ。最終戦で決着をつけることになった。ピットは大騒ぎだ。監督である信也は、一度だけガッツポーズを見せたが、あまり興奮を見せなかった。まあ、カッコつけたのだ。

 走行後車検を無事通過し、メカの辛島くんがなでるようにマシンを磨いている。ガソリンの残量とオイルのチェックも怠りない。燃費の計算をしておかないと次戦につながらない。ブレーキオイルがいつもより減っている。やはりきつめにしたことが影響している。

 さて、次は4時からのJP250のレースだ。だが、JSBのレースでオイルを噴いたマシンが出て、広範囲でオイル処理がされている。4時を過ぎてもオイル処理は終わっていない。ライダーがコントロールタワー前に集められてミーティングをしている。4時半を過ぎてももどってこない。もめていることは明らかだ。

 メカの辛島くんがいつでも出走できるようにしている。タイヤはソフトに換えた。夕方になってきて、気温が下がってきたし、おそらく周回数が減るだろうと予想できたからだ。

 4時45分。レース開始が決定された。あたりは薄暗くなっている。ピット内は電灯がついている。5時にピットレーンがあき、5分にクローズとなる。孝太郎が走ってもどってきて、装備をつけてマシンに乗り込む。なんとか間に合った。

 5時10分。ウォームアップラン開始。選手紹介もそこそこに出ていった。そして13分。周回数を10周に減らして決勝スタート。時間があればガソリンを抜きたいところだったが、そんな余裕はなかった。まあ、どのチームのそんな余裕はなかったのでイコールコンディションだ。

 孝太郎は新人なので、いつもビリ争いをしている。今回も予選はビリから3番目。18位からのスタートだ。でも、スタートで順位をひとつあげた。今日はビリ脱出かもしれない。と思うと楽しみだ。2周目もどってきたところで、「P17」のサインボードを出すように辛島くんに指示した。

 6周目、16位で通過した。どこかで1台抜いたか、前のマシンがミスったか?どちらにしてもピット内はわいている。

「今シーズンベストだよ。今日は違うな」

と竹本が言っている。辛島は「P16」のサインボードを出して、「行けー!」と騒いでいる。裕美は手を合わせて(こけないでね)と願っている。ビリになることより、マシンを壊される方がチームにとってはつらい。空はだいぶ暗くなってきている。

(孝太郎、無理はするなよ)

と信也は祈っていた。

 フィニッシュ! 15位でゴールした。それもマシン半分リードでだ。メカの辛島は優勝したみたいに喜んでいる。

「今シーズン初ポイントですよ」

「そうだね。これで孝太郎くんも一皮向けたな」

と竹本も喜んでいる。裕美は涙を流している。

 それなのに、孝太郎がなかなかもどってこない。どこかでこけたか?と思っていたら最後にゆっくりやってきた。竹本が孝太郎に近寄っていって

「なんだ遅かったな」

「うん、オイル処理をがんばってくれたオフィシャルにお礼のあいさつをしてきたら、一番遅くなってしまった」

「初ポイントで嬉しかったか?」

「はい、すごく嬉しいです」

「最終戦の鈴鹿はベスト10ねらいだな」

「はい、がんばります」

という会話をしている。信也も孝太郎を抱きしめたいぐらい嬉しかったが、チーム監督としての威厳を保ちたくて、無理をしていた。

「さあ、帰るぞ。帰ったら反省会だ」

そう言うと、メカの辛島が

「アルコール付きの反省会になりますね」

と相槌をうち、竹本から軽く小突かれていた。これにて任務終了。

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