第21話 第四王子、ビビる
アンリが王国に来る。
これも、信頼を目に見える形で示す、という皇国側の政治的取り組みなのではないか、と勘ぐってしまうが間違ってはいないと思う。
まあ、アンリを害しても何の利益もないからな。
とはいえ、もしリーナがアンリの立場だったらと考えたら恐ろしく感じるのはシスコンなのか否か。いや、俺は普通の立派なお兄様だからな。決してシスコンなわけじゃねぇ。多分。
「アンリに会えるのは嬉しいけど、顔合わせるだけボロが出そうなのが否めねぇ」
頭は回るが詰めが甘くてバカ。それが俺の自己評価だ。
え、高いって? うるせえな、散々バカにされてんだから自己評価くらい高くても良いだろボケ。
「全て『かもしれねぇ』で動かなきゃいけないのが面倒だな……」
会話を聞かれているかもしれない。行動を予測されているかもしれない。計画がバレているかもしれない。
「ぶっちゃけ婚約破棄関連のがバレても問題はねぇんだけど」
バレてもどうしようもないからな。多少心象は悪くなるかもしれないけども、人身御供(n回目)である俺たちが何かしようとも結果は変わらない……と思われているから。
その理由の一つに、俺たちが王族としての自覚があることにある。
アンリ側として、婚約は嫌だ。絶対に嫌だ。それでもどうしようもない時は受け入れるしかない……という認識がある。それは王族として、国を……皇帝を裏切ることができないから。
俺としても国を裏切るつもりも父上や兄上を裏切るつもりもない。いざとなれば自己の感情を封じる。王族の責務ってやつだと思う。
ここで一つ。
婚約破棄の計画を立てるのは裏切るだろ、と思うだろうが……うん、ぶっちゃけアウトよりのギリギリセーフだな。だって行動に移してねぇし。……詭弁だけども。
俺たちの婚約破棄計画が、婚約しない方が和平に有利だぜ、ってことを示すことにシフトしてる時点で、放っておいても害が無いのは明白だ。
「とは言っても、それも詭弁にすぎねぇよな……」
アンリが涙ながらに語ったように、義務感や責任感は、容易く己の感情を塗り潰す。父上がその気になれば、俺はハイと頷いて従うことしかできない。
己は持っている。ただ優先順位が常人とは違う。それが王族だ。
「何とかするしかねぇよな」
まだ無策ではある。
☆☆☆
「わぁぁ!!! 綺麗ーーー!!! 美しいですわ!!」
「ふふ、ありがとう。あなたも可愛らしいわ」
「それにお兄様より優しいですわ!!!」
「おいこら」
アンリが来た(事後報告)。
隣国だけあって馬車で二日ほどだ。本当に近ぇんだよ。
来て早々、父上に挨拶後、応接室で俺とリーナと会って……コレだ。
瞳を輝かせてアンリに話しかけるリーナと、笑み……そう笑みだ。皇女らしい微笑みでリーナと楽しそうに話すアンリの姿があった。
あの冷徹! 他人にわりと興味がない! アンリが!
多分本心からの笑みでリーナと話している!!
結構失礼な感想だけど、なかなかビビる光景ではある。
一回、他の冒険者に対するアンリの対応を見て欲しいものだ。コミュニケーションとは何ぞや、と思うほどの冷徹振りだからな。
……子どもにはちゃんと対応するんだな。
「お兄様には勿体無いですわ!! 代わって!!」
「もう少し俺に優しくしても良いんだぜ?」
「サービス期間は幼少期に終わりましたわ」
「あまりに早い」
ベッタリだった時期じゃねぇか。あれをサービス期間って言うのやめろ泣くぞ。
「仲、良いのね」
それを見てアンリが、どこか羨ましそうに俺とリーナを見た。哀愁すら漂っている。
アンリは兄弟仲が悪いのか? と思ったが、これほど距離の近い王族が珍しいのであって、普通はお互いに距離を取る。
皇位継承権問題もあるだろうし、互いが互いに政敵だとかも珍しくない。皇女であっても政争に巻き込まれることもある。そう考えると、まるで市井の兄妹かのような仲の良さを羨むのも当然かもな。
「これからはお姉様とも仲良しですわ! 私が仲良くなりますの!!」
「……そうね。ありがとう」
「仲良しー! 仲良しーですわ!!」
ぴょんぴょん飛び跳ねるリーナは、年相応で可愛い。いや、可愛いな! 普段から俺にその姿を見せてくれよ。
うちの妹、可愛すぎますわ!
「私たちは全員仲が良いんですの。だから、お姉様もこれからは皆で仲良しですわよ? 勿論、お兄様とも」
「わ、分かってるわ。勿論よ」
「……なら良いんですの! では、私はお父様に呼ばれてるので行きますわ〜〜!!」
言うだけ言ったと思ったら部屋から出ていった。
嵐みてぇだなぁ……。
にしても最後の発言。どこか釘を刺すような言い方は、何かを看破しているように思えた。あれで聡い子だ。子どもにしか分からない感覚で何かを掴んでいるのかもしれない。
「リーナさん、可愛いわね。私もあんな妹欲しいから結婚しましょうか?」
「意志薄弱ッ!」
「流石に冗談よ。にしても嵐のような子ね」
一瞬マジかと思ったじゃねぇか。
こいつの冗談、表情変わらないから分かりづれぇんだよな。
「まあな。王族らしくないって思うだろ。でも、俺はアレで良いと思ってる。何も全員が全員堅苦しい伝統に縛られなくても良いだろ」
「……あなたは?」
「それこそ兄の役目、ってんだ」
「シスコンね」
否定はしない。
王族らしさ。王族の責務、責任。俺は大いに縛られてやるさ。国のために尽くす覚悟はもうしてる。
それでもリーナくらいは人並みの幸せを送って欲しいと願っている。それをシスコンと言うなら俺はシスコンなのかもしれないな。
「……良い家族ね。羨ましいくらい」
ポツリと、寂しげな瞳でアンリは言った。
違う環境で育った俺は、その言葉に何も返すことができない。下手な慰めは時に人を傷つける。
俺は何も言うことができず……俺……ラスティでは寄り添うことすらできなかった。
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【補足】
伝わってないことがあったので!!
19話で皇帝レニエルは、アンリに盗聴魔法と位置情報魔法を仕込んでることが明らかになってます。
ラスティはそれを理解しているわけではありませんが、全て『かもしれない』で動いてるので、如何なる時でも正体のことを話すことができないのです。
感想、非常に助かります。
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