第20話 第四王子、懊悩する

「お兄様っ! 将来のお姉様に会いたいですわ!!」

「アンリ皇女のことか?」

「そうですわ!!! とっっても綺麗な方だって聞きましたわ」

「ん、まあな」


 まあ、見てくれは良いからな。内面は万人受けするようなものではないし……。あくまで俺が変態で異質なだけ。

 それはそうと、迷宮から帰ってきた翌日にそんなことを言われると少しドキリとしてしまう。最も我が妹リーナは俺達の事情を何も知る術はないため考え過ぎなのだろうが、タイムリーな話題にはヒヤヒヤしてしまう。


「あの、あのッ! お兄様と結婚なさる方ですもの。是非とも会って確かめてみたいのですわ!」

「確かめるって何をだ?」

「お兄様がお姉様(仮)に相応しいのかを!!!」

「逆だろ! お前の中の俺の評価かなり下だよな!」


 昔はあんなにベッタリ甘えてきたのに、反抗期なのかお兄様disがお得意になってきて悲しいぜお兄様は。たまに素で言ってるような仕草があるから怖いけど。あれを計算でやってんなら将来が楽しみではある。


「違いますわっ! 勿論お兄様のことは敬愛しています。ですが、誰よりもお兄様を知っている身として! それなりに性格がおよろしくないお兄様がお姉様(仮)とやっていけるのかが心配なだけですの!!!!」

「心配という名の罵倒じゃねーか。およろしくない性格ってのは自覚あるけど、妹から指摘されるとそれなりに傷つくな!」

「でも、私の大好きなお兄様ですわ……!」

「リーナ……」


 なんか含み笑いされた。あれ絶対ちょっろ、って思ってる顔だろ。でも、って言ってる時点で性格がおよろしくない発言はそのままだからな。煙に巻こうとしている辺り、王族の血を感じる。

 

 まあ一先ず置いておいて。

 リーナをアンリに会わせる……か。リーナが変な影響受けそうで怖いところではあるが、リーナの感性はどちらかと言うと俺側だ。べたべたに懐く可能性もある。

 そうなるとそうなるで面倒なんだが……。


「身分が身分だからな。おいそれと呼び寄せることも出向くこともできねぇよ。悪いが諦めてくれ」

「えーーー、むぅ……分かりましたわ。我儘言ってられませんものね」


 一瞬不服そうな表情で頬を膨らませるリーナであったが、すぐに王女としての姿を取り戻す。……兄としては年相応なところも見せて欲しいんだけどな。環境がそれを許しちゃいない。仕方ないとはいえ寂しさもある。


「前も言ったけど、無理はしないでね」


 リーナはそんな言葉を残して部屋を出ていった。

 妹に心配される兄貴というのもなかなかダサい。

 しっかりしないとな、と頬をパンッと張って、俺は勢いよく立ち上がった。




☆☆☆ 


「手紙を預かっている。アンリ皇女のもの。それとルスフェル皇太子のものだ」

「あの坊ちゃんが手紙をか……」


 そこは王の執務室。

 父上に呼ばれた俺は、そこで手紙を受け取る。

 アンリからの手紙は予想の範疇であったが、まさか皇太子からも手紙が送られてくるとは思わなかった。

 確かに和平の時は少し面倒を見たが、それだけだ。以降何も連絡が無かったから懐かれることは無かったか、と胸を撫で下ろしていたのに。にしても手紙を書くような性格に見えなかったけど驚きだな。

 

 俺は父上に許しを経て、その場で手紙を開封する。

 皇太子ルスフェルの手紙から。


『第四王子、ラスティ殿。

本当は礼も兼ねて早々に手紙を送ろうと思ったのだが、お祖父様のシゴキに毎日疲労困憊で書く余裕がなかった。遅れてしまったことを謝罪する』


 そんな文から始まった皇太子の手紙は、近況を報告するものと政治関連の政策や、皇太子の業務に関する悩みと質問が記述されていた。もしよければ何かアドバイスが貰えないかと。


「……あれ、わりと好感度高くね?」


 誤算だ。

 いや、俺にとっては大したことがなくても、皇太子側からしたらインパクトのある出来事だったのかもしれねぇな。……まあ、他国の王子が皇太子に説教するのはインパクトしかねぇけどな。

 

 ……チョロい! チョロいぞ!!

 もっと鉄壁であって欲しかった。

 これ以上外堀を深くして難易度を上げたくない。


 一旦置いておこう。次はアンリの手紙だ。

 

『第四王子、ラスティ様

お祖父様からの提案により、一月ほど王国の方へ滞在することになりました。その際はよろしくお願いいたします』


「……マジか」


 これでリーナに会わせることができるな……と第一に考えるほどシスコンではない。未だ緊張状態のある情勢で、よく王国に長期滞在させようと思ったな……という驚きだ。

 貴族間には、未だに和平反対派が根を張っている。この訪問は大々的なものではないが、それでもどこからか情報は漏れるだろう。

 

「余からも護衛は出させよう。だが、一番近くにいるお前が守れ、ラスティ。知っての通り、国の情勢は未だ不安定だ。鎮圧と説得に奔走している今だからこそ、事を荒立たせるのは避けたいのだ」

「了解いたしました」


 言われなくても守る……が、不意を突かれることもある。警戒を怠らないようにしねぇとな。



 ──さて、で、暗号の方は。

 

『行きたくないわ。サボりたい』


 ……あいつらしいな。

 

 

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