第15話 ダメだよ

また強い風が吹いて、イリスの髪が激しく乱れた。ぼさぼさの前髪の隙間からのぞく瞳が潤んでいる。

「イリス……。ネットでなんて何とでも言えるよ。そんなの危険だよ」

「危なくてもいい。制服を変えるとか、そんなことしてくれなくていい。ただ分かってくれる人がいてくれれば、それでいいのに、どうしてそれすら叶わないの。なんで誰も来ないのっ」

最後、イリスはほとんど泣き叫んでいた。それから突然、フェンスに手をかけると、よじ登り始めた。

「イリス、何してるのっ」

 止めようと駆け出したけど、足が震えてもつれてしまう。

サァーッと遠くから金属のこすれる、冷たい音がする。

線路の奥に視線を向けると、煌々とライトを光らせた電車が走ってくるのが見えた。イリスは、フェンスを登り続けて、上部の有刺鉄線にまで手をかけようとしている。

電車は容赦なく迫ってきて、ゴオーッという走行音がどんどん大きくなる。

「イリス、降りてっ」

心春はそう叫んだあと、もう恐怖に耐えられなくなり、目をつぶった。

その直後、ガシャーンとフェンスが揺れる大きな音がして、それからどさどさっと何かが落ちる音がした。

心春は、痛むほどぎゅっと目を閉じた。

激しく波打つ鼓動と、電車が通過するけたたましいリズムが全身に響く。

長い数秒が経ち、電車が何事もなく遠ざかっていったのがわかった。

震えが止まらないまま、心春がおそるおそる目を開けると、道路に尻もちをついた人の姿が二つ見えた。

「いってぇ……」

イリスじゃないもう一人の方が言い、腰をさすりながら体を起こしだす。

二人いる。どういうこと?

心春はよく状況がつかめず、その場から動けなかった。

イリスは、同じ体勢のままじっとして、一言も発さないままだ。

「じ、自殺とか、寒いことしてんじゃねぇよ」

 立ち上がりながら吐き捨てた正体不明の声は、威勢のよい言葉とは裏腹に、震えている。

 ──この声、聞き覚えがある。

 心春は、はっとして、二人のそばに駆け寄った。

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