第9話 イリスがいなくなった?
さっきのイリスは、まるで別人みたいだった。あの動画も、激しく心春を責める様子も、いつもの穏やかな姿とは、あまりにもかけ離れていた。
何をする気にもなれず、しばらくベッドで意味もなくスマホをいじっていると、ドアをノックする音がした。多分、お母さんが「帰ったらただいまくらい言いなさい、夕飯できたわよ」とでも言いに来たのだろう。
仕方なくドアを開けると、お母さんが深刻な表情でスマホを握りしめている。
「心春、帰りに田沼さんに会わなかった? ちょっと出かけるって言ったまま、いなくなっちゃったんだって」
心臓がどくんと跳ね上がる。もしかして、あの後から家に帰っていないのだろうか。
「夕方、プリントとか届けに行こうとして、イリスが家の側の公園にいたから、そこで話したけど……」
「田沼さんと会ったの? どこか変な様子は無かった? 何か言っていたり……」
お母さんが次々と聞いてくる。鼓動がどんどん速まっていく。
「別になにも……。みんな心配してるって伝えて、普通にプリント渡しただけ」
心春は思わず下を向いた。
本当のことを言わなくちゃ。でも、自分が責めたせいでイリスはいなくなったのかもしれないと思うと、怖くて話せなかった。
「そう……。とにかく、田沼さんのお母さんに、会ったことは伝えておくわね」
お母さんは、スマホを操作しながら心春の部屋を離れて行った。
時刻を確認すると、19時半を過ぎている。外を見てみると、もう真っ暗だった。電線が、強風にあおられて激しく揺れている。
もし、イリスに何かあったら自分のせいだ。スマホを握る手にうまく力が入らない。
──どうしよう、誰か……。
震える指を何とか動かしながら美羽ちゃん宛にメッセージを打ち込む。
『イリスがいなくなっちゃったんだって。もしかしたら、私のせいかも……』
送信ボタンをタップするとすぐ、スマホが長く震えた。驚いて画面を見ると、美羽ちゃんからの着信だった。今までメッセージはたくさん送り合ってきたけど、電話がかかってくるなんて初めてだ。
心春は、少し緊張しながら通話ボタンを押した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます