第5話

「美しい」

 全ての武装を展開用に組み替え処理しながらボクは上司に通信を送る。

『アルセルから本部へ、ディアボリカと会敵。これより交戦に入る』

 ボクらが敗北した場合でもディアボリカを帝都に行かせるわけにはいかない。保険は大切だ。

それに今からでは増援が来たところでボクらの邪魔にはならないだろう。

「さぁおいで、ディアボリカ。ころしてやる」


―――――――


 一時の硬直。

両機の間に言葉も通信もない。必要もない。

命令は既に仕込まれている。撤回も撤退も赦されない。

小さな竜巻が砂塵を巻き上げ足元を駆ける。


風が哭いた。

次の瞬間ディアボリカの周辺、放射状に子機が射出された。

「来る」

一瞬で形成された弾幕の壁にアルセルが地面を穿ち捲き上げた土塊が衝突し爆風が二機を分かつ。

「浮力を維持する構造を考慮すれば、そう長く撃ち続けることは出来まい」

 爆風を巻き取るように駆け抜け、腕に生み出したショットガンで子機を撃ち落とす。

 全てを落とす必要はない。ディアボリカの影に入りながら進行に邪魔な子機に絞る。

 ディアボリカの足元に肉薄したアルセルは数発の銃弾を装甲で受けながら黒い機体を駆け登る。

「熱源解析で視えているよ。電池さんパイロット

 アルセルは高高度まで飛ぶような設計はされていない。飽くまで跳び上がったり少し滞空する程度の出力のバーナーを瞬間的に爆発させ、自身を撥ね飛ばす。

「ロック解除、ブレード移行」

 絶えず計器に表示されるアラートを無視しながら肩に跳び乗ると視界が赤く染まった。

 レーザー照射を瞬時に体高を落としディアボリカの頭に向けて転がるように回避する。鈍い音を立て溶けるディアボリカの装甲を尻目に熱源を撃つ。

 ディアボリカの肩から生えてきていた照射口を破砕し、アルセルは側部から引き抜いたブレードで斬り飛ばす。

 可変機のおぞましいと言われる点だがディアボリカもアルセルも機体内で兵装を作り出し作り変える。

 弾薬にリソースを裂きすぎると強度は勿論稼働時間や機体サイズに影響も出るが、応用力……何より継戦能力が非常に高く炭素の多い有機物を補給できる環境にあれば、理論上は無限に近い時間戦っていられる。


尤も、先にパイロットに限界が来るのだが。



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