第4話

 ボクは目を開けた。


 眼前に表示されたテキストを追う。

Welcome Ladie. You have control.

「I have」

 ボクは今アルセルの中にいる。


 ただ一人のアルセルのパイロット、それがボク。

彼はボクをレディと呼ぶ。

「アルセルくん、行こう」

 呼応するようにアルセルを操縦するための仮想肉体が空間に構築された。

一拍置いて各種パラメータが周囲に表示される。

 音声入力は必要ない、脳波の感応同期は済んでいるけれどつい癖で言葉にしがちになる。

 アルセルはこの状態では会話できない。寂しくも全てボクの独り言だ。

 うさぎの耳のように二本突き出たアンテナや黒い外装を含め体高約5m程度。現行の搭乗機としてはかなり小柄ではある。

 アルセルの最大体高はもう少し大きいけれど兵装を作る都合今回はこれで戦うしかない。

不安はない。飛ぶように、元の肉体では考えられないくらい早く、この機体は動く。

弾もあまり多くない、省エネで戦わなきゃ。

 向こうてきの監視衛星にこの姿を確認されればすぐ追手が来るだろう。

 はぁ、大変な仕事だ。

 脚部のバーナーをつけ、装備のブレードを引き抜く。

 一足飛びに跳んでトレーラーに乗り、運転席を側面から蹴りつけた。

 大きくひしゃげた運転席には相当前に死んだのだろう運転手の傷んだ死体が乗っている。

「自動運転か」

 荒野を移動するのに精密な制御など不要か、お飾りで乗せられた運転手が憐れだがさっさと忘れる事にする。ボクに魔法は使えないからね。

「リロード、3発」

 右腕を銃に組み替えホイールの隙間を撃つと、嫌な音がガリガリと鳴りタイヤが外れた。

 同じ要領で片側のタイヤを外していく。

 3本目で遂にトレーラーが体勢を崩した。

 轟音を立て巨大なトレーラーが横転する。

「はー、大きいね。アルセルくん。どうやって壊そうか……?」

 ディアボリカの本体は格納状態の球形で20mはあった。

 運良く残っていた設計図面を見てきたが展開状態で50m以上になるらしい。悪魔とはよく名付けたものだ。

「ん?」

アラートが出てトレーラーから一度距離を取る。

街からもモールからも離れた荒野には他に動体はない。

「……」

 伝熱式のブレードを引き出す。

球体にゆっくり刃を押しあて

られない

 ボクらは勢いよく吹き飛ばされた。

視界がノイズだらけになる。

「そっか……やっぱりパイロット、乗ってるんだ……」

 ディアボリカの隠しドックからの移送情報を掴んだのは約二月前、通常なら搭乗者は死んでいる。しかし現に動いているならば「やはり」やったのだろう。

 搭乗者の仮死化

 ディアボリカの目玉であり人道に反する機能。

 搭乗者を薬漬けにし内部機構で仮死状態にする死体電池デスパッケージ。  

 登場者はディアボリカの起動条件を満たすと強制覚醒させられ事前命令を受領したAIに有機コンピューターとして使われる。

 ディアボリカのパイロットはマスターではない、生体部品としてデザインされていた。

過剰製造オーバーロットであるディアボリカはシリーズで初めての人を使う機械として産まれた。

 使い捨ての命で動く機械兵装、マータシリーズの最終作にして最高傑作が、起床する。


 パリパリ音を立て保護外装が剥がれていく。

「アルセルくん……きみにも見えているかい……?」

 球形に亀裂が入り瞬く間に組み上がっていく。

その姿はまるで

「天使だ」

 三対六翅の黒い翼を背負った巨大な機体がゆっくりと立ち上がった。


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