第62歩 気まぐれ

 友人D君の体験。

D君は離れた町から仕事で温泉街のホテルで働くためにやってきた。


仕事にも慣れてきた頃、休みの日、D君は職場周辺を

自転車で探険して歩くのを楽しみにしていた。


 気まぐれに、あっちは何かなと自由に進むうちに空港の裏手の道を走っていた。


段々日が暮れてきた頃、ブランコのある公園を通り抜けて砂利道を走っていると、すすきの生えている広い原野の一本道に出た。

遠くに森が見え山に入る道が続いている。


 ふと前方に一人の、お坊さんが立っていた。


丸い笠をかぶり黒い着物に身を包んでいる。


『こんなところで何してるのかな・・』


そう思いながらD君は近づいて行った。


お坊さんは、すすきの生えた原野に向かって読経している。


お坊さんの後ろを通り過ぎる時お坊さんが軽い感じで

こちらに会釈してきたのでD君も少し頭を下げた。


通り過ぎて、すぐに振り返って見ると、そこに、お坊さんの姿は無く

夕暮れの原野があるだけだった。

 

『おいや、いねぇきゃっ・・・』


怖くなって自転車を

漕いで逃げたという。


私がその場所を詳しく聞くと

そこは第16歩でキツネがたくさん居た赤い服の女が消えたのと

同じ場所だった。

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