第56歩 蟲のしらせ

 私が子供の時、父が病気で亡くなり当時、葬式には結構な人が集まった。


父は昼間から病院のベッドで意識が無くなり危篤状態が続いて

深夜一時頃に臨終となった。


 自宅での葬式で、お坊さんが帰り、人が引いた頃。

母が来客と妙な会話をしているのが私の耳に入ってきた。


「この間、ごはん食べてたら箸が二本ともボキッと折れてね

何にも力なんか入れてないのに」


「夕方、居間にいたら奥にある仏壇の鈴がさぁチーンって

一回鳴ったんだあ」


「茶碗洗ってたらパカって真ん中から二つに割れたんだわ」


「玄関の引き戸開く音ガラガラって聞こえたから出てみたら

誰も居なかった」


 どうも父は昏睡していた時に色々な家を周り知らせて歩いていたようだ。


只、会社の仲間や兄弟、親戚のところには現れず、

さほど親しくもない、ご近所や知人の所ばかりに現れていた。

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