第49歩 残業しません
AさんはIT企業の社員だ。
新人の頃ある日、残業になった。
家に持ち帰っても良いのだが気が乗らず広いオフィスに残った。
複数人で残業のつもりが7時前に皆、帰ってしまった。
いつになく先輩が
「それじゃ帰るけど気をつけてな」愛想よく帰っていく。
『なんだ、みんな冷たいな・・・』
静まり返るオフィスで独りパソコンに向かっていると
―ゴロ、ゴロ、ゴロ
フロアをボーリングの玉が転がるような音がする。
『ん、何かな』耳を澄ますと
―ゴロ、ゴロ、ゴロ・・やはり音がする。
立ち上がってオフィス内を見て廻ったが異常はない。
『まぁコーヒーでも飲もう』
インスタントコーヒーを入れようと準備していると
壁のカレンダーが振り子のように左右に揺れている。
周囲を見回すとブラインドの紐や非常灯のチェーンなど、
ぶら下がっているものが、ゆらゆら揺れている。
地震かと思ったが、どうも違う。
すると
―ゴロ、ゴロ、ゴロ・・と音が聞こえる。
奥に行ったり右に行ったり・・・。
Aさんは先輩の携帯に連絡を入れた。
妙な音が聞こえ、ぶら下がってるものが揺れだしたと報告をすると
「あー、もう帰って家で仕事やれ
帰り防犯システム忘れずに鍵かけるんだぞ、あんまり遅くまでいると
出るからな・・・解ったな帰れよ」
途端にAさんは背筋がゾーっとなった。
「怖いこと考えた訳でもないんです、でも、後ろの方からゴロゴロって音がして背中が、すごい冷たくなったんです」
帰ろうと思い大急ぎでパソコンの電源を落としオフィスの電気を消した時、また
―ゴロゴロと音がして、あちこちの紐やチェーンが左右に揺れだした。
「昼間、よく観察して見ましたが空調つけてもカレンダーやチェーンが揺れることは、ありませんでした、あれ何だったんでしょうか」とAさんは不思議そうに私に話してくれた。
先輩にも聞いてみたが詳しくは知らないという。
Aさんは、それきり会社で残業は二度としていない。
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