第47歩 雨音
D君は私の友人で今は新潟で調理師をしている。
一時期D君は駅前にあった食堂で働いていた。
私も何度か足を運んだ。
その食堂は廃業したホテルで一階の喫茶部分のみ使用して営業していた。
ホテルといっても大きいホテルではなく手頃な大きさのビジネスホテルのような感じの建物だった。
ホテルの部屋は風呂以外そのまま使用可能なため
D君は節約も含め、そのホテルの一室を自分の部屋として使用していた。
私も特別にホテル部分を見せてもらったが
夜は食堂の仲間も帰宅してしまう。
D君に
「一人ぼっちは怖くないのか」聞くと
「全然」と言っていた。
ところが、ある日D君から連絡が入り妙な事があったと報告があった。
話はこうだった。
その日は天候が悪く店は暇だった。
「もう今日は無理だなぁ・・・」
早々に店を閉め酒を飲んで寝ることにした。
ホテルの部屋で目を瞑っていると雨音が心地よかった。
やがて雨音に混じって
―じゃり、じゃり――外で砂利を踏む人間の足音が聞こえる。
『錯覚かな?』なおも目を瞑ってウトウトしていると
ふいに玄関のドアノブが
―ガチャリと音を立てた。
―ズン、ズンズン・・・
足音がして誰かが部屋に入ってきた。
仕事仲間かと思い起き上がろうとしたが体が動かない。
それからD君の寝ている奥部屋の内ドアが
―スーッと開けられ
そこから全身緑色に光る知らないおじさんが寝室に入ってきた。
「なあーんだ、ここにいだのかあー」
―うわぁ、と思うも体は動かない、おじさんはニヤニヤ笑いながらD君の上に馬乗りになって首を絞めてきた。
『苦しい・・・』と心の中で思い、動かないながらもジタバタ抵抗して
「プハッ」息を吐いた、同時に体が自由になった。
もう緑のおじさんは何処にも居ない。
それ以降、寝るときはベッドの小さい明かりを点けたままにしないとD君は眠れなくなった。
そして半年も経たぬうちに食堂は閉店、建物も解体され
現在その場所は有料駐車場になっている。
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