第46歩 廃校にて

 Yさんが高校生の時、近所の中学校が廃校になった。


管理は厳しくなくYさんは友人と廃校の体育館でバスケをしたりして時々遊んでいた。


 夏休みYさんはバンドを組み音楽に夢中になっていた。


誰となく

「せっかくだからバンドの練習と夏休みだしキャンプのような真似事をして廃校の体育館で一泊しないか」と話がまとまった。


 高校生ともなると用意周到リヤカーに農家の同級生から発電機を借りてきて積み込み、楽器一式、寝具、あとは飲み物やら調理器具、カレーの材料など積み込んでラジカセをかけながら10人ほど集まって楽しく準備した。


 いざバンドの練習を発電機でやってみたが電圧が不安定なのかアンプのヒューズが飛んでしまい音が出なくなって中止。


残ったメンバーはグランドの水飲み場を使用できるようにしたり

晩飯の準備にかかった。


 みんなで晩飯を食べ花火をして盛り上がっていたがメンバーのうち半分が泊まらずに歩いて帰るという。


 廃校になったとはいえ町中の中学校、帰ったほうが楽だというメンバーが出ても不思議はない。

5人残り、それじゃ後片付けは明日にして寝るかと広い体育館に雑魚寝した。


 Yさんは夜中、猛烈にトイレに行きたくなり目が覚めてしまった。

体育館には、ぼんやりとランタンの灯りが灯っていて薄気味悪かったが懐中電灯片手にトイレに行った。


 トイレは怖かった、誰もいない学校で夜中にトイレに行くことは、もう二度とないなと思った。


怖さを誤魔化して足早に体育館に戻ってみると寝ているはずのS君が居ない。


Yさんは寝ている他の仲間を起こした。

時間は深夜になっている。


「おいSが居ないぞ」

「ああトイレじゃねぇの」

眠い目をこすり仲間も起きた。


 S君は帰ってしまったのかと思ったが荷物はそのままだ。


大声で呼んでみたが返事もない。


4人で怖々校内を探したが、どこにもいない。


外にいるのかとグランドに出て懐中電灯で照らしてみると

端の方に誰かがいる。


正座したS君だった。


「おーいS、どうした」

みんなで近くまで行くと正座したまま地面を手でかきむしり掘り起こそうとしている。


グランドの硬い土を素手で無我夢中に掘り起こそうとする。


「やめろ、S、やめろって」

4人がかりで押さえ込み無理やりやめさせたがS君は暴れる。


「うがぁー」

軽くビンタしてみたり揺すったりしてみたが正気に戻らない。


「どうするよ」

S君は

「うー」と呻き声を上げている。


S君に水を飲ませ見張りながら帰り支度をしているとS君は眠ってしまった。


夜が明けてきてリヤカーに眠っているSくんを乗せて帰った。


S君は眠ったままの状態だったが無事みんなで抱えて家に届けた。


皆、寝不足だったが夏休みと若さで体調を崩すような事は無かった。


 後日、気になったYさんは何度かS君の家に行ったが、いつも留守で誰もいない。


夏休みが終わり新学期になって先生が開口一番

「S君は入院したそうです、お見舞いは遠慮致しますという事なので、みんな静かにS君の帰りを待ちましょう」


 あの夜S君に何があったのか

 なぜ地面を掘ろうとしていたのか


結局S君の家族は知らないうちに引っ越してしまい、その後どうなったのか誰にもわからなくなった。

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