第42歩 タバコの火
前述の元漁師のTさんは子供の頃、近所の神社に行って、
お供え物を盗んで食べたり、
10体は並んでいた、お地蔵さまの首を蹴飛ばして全部もいでしまったり、いたずらして大人に怒鳴られても平気だった。
それどころか赤の他人の物置に悪ガキと一緒に丸太をかついで行って
「それーっ」と突撃し物置を破壊して逃げた、という武勇伝まである
近所で評判のやんちゃ坊主だったそうだ。
ある日、収穫の終わった畑や水田周辺で、ぶらぶらして遊んでいた。
水田の近くに小川があって石を投げ入れると隠れていた魚が、たくさん出てくるのが面白く石を投げ入れる遊びに夢中になっていた。
『ハッ』我に返ると辺りは既に暗くなっていた。
子供のTさんは咄嗟に『親父に殴られる』と思い
月明かりを頼りにしながら足早に家路を急いだ。
畑があるだけで民家もなく街灯もない。
油断すると道を踏み外す程、真っ暗闇に近かった。
急いで歩いていると、ふと後ろが気になり振り返った。
ぞっとするような暗闇がある、と、そこにタバコの火が見えた。
赤い小さな光がポツンと見える。
『あ、誰か大人がいるんだ』
少しほっとした気持ちが出てきた。
Tさんは少しゆっくり歩けば後ろの人が追いついてきて
一緒に歩けると思った。
心細かったTさんは、ゆっくり歩いたが全然後ろの人は追いついてこない。
後ろを振り返ると、やはり赤い光がポツンとあって、ついてくる。
街の明かりは、まだ遠い。
少し目が慣れてきて、また振り返ると赤い光がいる。
だが人影は見えない。
立ち止まって身を乗り出し目を凝らしてみたが人影はなく
空中に赤い光だけが
―ポツン― と見える。
急に怖くなった。
Tさんは夢中で走り出した、走りながら振り返ると赤い光は追いかけてくる。
『うわ、なんだあれ、おっかねぇよ・・・』
怖くて走れるだけ走った。
やがて街灯のある道まで来て民家も見えてきた。
息を切らしながら見慣れた町並みに差し掛かり
後ろを確認すると赤い光は見えなくなった。
帰宅すると親父さんのカミナリが落ちた。
その夜Tさんは高熱を出し寝込んだ、それから入退院を繰り返し一年以上も学校に通えなくなってしまった。
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