第41歩 帯

 元漁師のTさんが子供の頃、畑に囲まれた道を歩いていた。


夕焼けの美しい日で

『空が赤いな』と思いながら歩いていると頭上から


―バタバタバタバタ・・・と音がして上を見ると空に何かが飛んでいる。


『着物の帯が飛んでる・・・・』

Tさんは最初、着物の帯が風に流され飛んでいるのかと思った。


だが帯はゆらゆら波打って風に逆らって飛んでいた。


『あれ、なんだろう・・・』


注視していると、やはりバタバタと音も聞こえる。


長さは4、5メートルはあるようで子供のTさんは帯を追いかけ走った。


 よく見ると帯の向かう先端辺りに黒く目の様なのが二つあった。

色は肌色に近い感じに見えたが夕焼けの反射で少し曖昧だった。


懸命に走って追いかけたが結局、帯は向こうの山の方角に飛んでいき

やがて見えなくなった。

 

 私は「その帯に手足はありましたか」聞くと


「帯そのもので手も足もなかった」という返答であった。

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