第43歩 慣れました
有名飲食店勤務の女性Mさんから聞いた話。
その店は『出る』店だった。
来店を知らせるチャイムが鳴っても誰もいない。
店内で人影を見るも誰もいない。
誰もいないのに話し声がする、テーブルの備品が動き回る。
昼も夜も関係なく変な事が多発した。
但し、お客様が居るときは、なぜか何も起こらなかった。
そんな店とは知らずにMさんは就職した。
ある日、Mさんがトイレに入ると自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「Mさーん、Mさーん」男の声だ。
「はい、何ですか」
「アハハ、Mさーん」コンコンとノックしてくる。
「誰?何ですか」
トイレから外に出て仲間に聞いた。
「今、トイレで呼んだの誰ですか」
その日の男性スタッフは二人だけ、だが二人共に仕込みをしていて
Mさんの問いかけに
―キョトン?としている。
同僚の女子が
「出た?トイレで?ただのイタズラだから気にしなくていいよ」
「あれはオバケなの?」聞いてみると
「たまあーにイタズラするのよ悪趣味だよね」
「えー?ホントですかぁ?」
しかし、あんなにハッキリと名前も呼ばれたしノックの音も聞いた。
Mさんは、ひょっとしたら皆でドッキリを仕掛けているではないかと思った。
その日、無事営業時間が終わり店の裏にゴミを出しに行った。
裏口から出るとセンサーでスポットライトが点灯した。
「おおーい、おーい」何処からか男の声がする、周囲に人影は見当たらない。
「おーい」
声はゴミ箱の中から聞こえる。
だがゴミ箱の蓋は南京錠で施錠されたままだ。
「えっ?」と思い耳を澄ますと。
「おーい、おおーい」と聞こえる。
走って店内に戻り店長に報告すると
「一緒に来い」と言う。
錠をはずしてゴミ箱のふたを開けると中は空っぽだった。
店長が言う。
「もう慣れたけどね、座敷わらしだよ」
Mさんは皆が平気にしているので騒ぐのをやめた。
先輩にも色々聞いたが病気になったり事故にあったりという事もないので大丈夫だという。
『そういうものか』と思いMさんは4年程そのお店に勤務していたという。
小さな怪異は当たり前、トイレのいたずらも
「うるさい!」怒鳴ると滅多に無くなった。
何度かスマホで動画を撮影しようとしたりしたがカメラを用意すると何も起きず、すっかり忘れているときに限って怪異が起きたという。
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