第9歩 あんぱんの神様
70年代後期から80年代にかけて、つっぱりブームがあり
街にヤンキーと呼ばれる若者がたくさんいた。
それでも道を踏み外すのは一部の人間だけで、つっぱりもファッションの一部だったように思う。
次の話は社会の倫理からは外れている話だが遠い昔の出来事なので大目に見て欲しい・・・
Mさんは高校生の頃バリバリのヤンキーだった。
中型のバイクを乗り廻し仲間からも一目置かれる存在だった。
ある日、相棒と待ち合わせをしていた。
住宅街の外れに当時でも珍しい廃墟の馬小屋があって、そこで悪い遊びをしようと企んでいた。
バイクの荷台に
―ドカン!と、お馴染みの?シンナー一斗缶を載せて馬小屋に到着した。
時刻は、もうすぐ夕方6時になろうとしていた。
一斗缶を小屋に持込み相棒の来るのを待ったが遅れているようだった。
まだ外は、うっすらと明るい。
馬小屋には中二階があり、そこに干し草も敷いてあったりしたが長い間、馬は居ない廃墟小屋だった。
電気はなくガラスの無い窓が有るだけの状態だった。
Mさんはハシゴを登って二階に陣取り干し草のうえに寝そべった。
「あーあ、しょっとぉ・・・」
連日の暴走、夜ふかしで急に眠気が襲ってきてウトウトしていると
―ドンッ!! 床が鳴った。
驚いて飛び起きると目の前に大きな人が立っていた。
その人は
天井まで、くっつきそうな程大きく一瞬、自分を襲いに来た敵かと思い薄暗い小屋の中で目を凝らしてよく見た。
『んっ、なんだ・・・誰だ・・・
その大きな人は上半身裸で肌の色が茶色く筋肉が隆々と盛り上がっておりニッカボッカの様なズボンを履いていた。
自分も立ち上がろうとしたが座ったまま動けない・・・。
『ううん、何かヤバイぞ』心の中で思っていると男はこちらに近づいてきた。
―ドスン、ドスン、ドスン――
足音を鳴らし大男が目の前まで来たときMさんは
上から自分を見下ろすその人は肩までは人間だが頭部が馬だった。
ギョッとしたMさんは動くことができない。
大きな馬頭の男は丸い目玉を
「ギョロリ」こちらに向け無言で立っている。
そのうえキツイ
「うえっ、すげぇ臭い・・・」
その時、小屋の外から相棒のバイク音が聞こえてきて小屋の前で止まった。
―ボォウン、ボォン・・・・・
エンジン音が止まると
Mさんを見下ろしていた馬頭の大男はMさんを見つめたまま
「ニヤリ」白い歯をむき出して笑うと
―ひょい、と飛び出した。
大男は隣家のトタン屋根に飛び移り
―ドカンッ、ドカンッ―大きな音を立てながら屋根をぴょんぴょん飛び跳ね、ずっと遠くに行ってしまった・・・
二階から下を見ると今、到着した相棒が上を見ながら唖然とした顔で
「今のなによ?」相棒が聞いてきた。
「お前も見たか?」聞き返すと
「隣の屋根ズダンッって音したから、そっち見たら、ぴょんぴょん跳ねてったぞっ!」
自分も相棒もシラフであり幻覚では無かったことが解った。
その日はひどく疲労感があり、そのまま解散した。
後日、Mさんは、極道の先輩のところに遊びに行った時に
先日、馬頭の大男に遭遇し驚いたと話をした。
すると先輩は口を開いた。
「それは、あんぱんの神様といって、この世界じゃ、そこそこ知られているものだ、お前このままだと死ぬぞ、もう悪い遊びやめろ」
だしぬけに説教くらったMさんは
「わがったよ、じゃあ、もう此処にも来ねぇからな」ふてくされると
「来なくていい、ヤンキーは卒業して、まともになれ」先輩はMさんをなだめた。
Mさんは馬小屋で遭った怪異だけに馬のお化けかと思っていたのだが
先輩は神様だという。
それきり、ヤンキーを卒業した。
「ニヤっと、あれが笑った時、白い歯が見えたんだけど、あごの歯の奥に下から上に向かって生えた長い牙が左右に1本ずつあったんだよね」とMさんは付け加えた。
地獄の従者に牛頭・馬頭がいるのを皆さんはご存知だろうか?
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