第8歩 続・寮生活の思い出
夜中に悲鳴を上げたRさんは翌日、社長のところに出向き
会社を辞めたいと申し出た。
突然の事に社長は「どういう事だ事情を話せ」と言い
Rさんは仕方なく
「寮に幽霊が出て眠れないし色いろあって仲間にもバツが悪くて居られない」と白状した。
頷いて聞いていた社長は、その場で、すぐに不動産屋に電話した。
「急で悪いけど、うちの近所で今晩からでも、すぐ入居可能なアパートはないか、
いやあ、またうちの寮に、おばけ出たらしいんだよ、
で、うちの社員一人出すから、どっか近所にないか?
家賃3万くらいで、ん?あぁ駐車場は無くてもいい、
できれば風呂のついた・・・うん、じゃ大至急頼むわ」
Rさんは作業員の中でもユニックやユンボの免許を取得している
無くてはならない存在だったのもあったらしいが、それにしても話の飲み込みの早い社長は何か知っているようだった。
「今日は昼から仕事休め飯食ったら俺と引越しだ」
Rさんは、なんだか社長が頼もしく思え涙が出てきてしまった。
「何泣いてんだ、なーんも心配すんな」Rさんの肩を掴んで軽く揺らした。
社長は以前にも何人か辞めていった人間がいると話してくれた。
無断欠勤して、そのまま連絡が取れなくなった者も居たらしい。
その週末、予定外に会社で呑み会が開かれ件の部屋には、いつの間にかドアに新しい錠前が掛けられた。
宴会の席でRさんはS君に
「わるかったなぁ」と頭をさげた。
Rさんは、あんな照れくさい思いは初めてだったという。
S君がRさんに部屋で何があったのか聞いてみた。
「いやんや、めちゃくちゃ、おっかなかったぞ」
笑顔で問いに答えたRさんの体験は、こうだった。
S君を馬鹿にして
渋々部屋を交換したが実は初めてRさんが寮に入居するとき、
その部屋は、なんとなく暗い感じがして避けた部屋だった。
部屋を交換して一週間程は何もなかった。
やがて部屋の中で
『パキッ』と音がしたり蛍光灯がダメになったり
『うううーーん』という重い唸り声で夜中に目が覚めるようになった。
丁度ひと月経った頃、夜中に突然パッと目が覚めた。
「あれっ?」
体が動かない、暗いはずの部屋が不思議とハッキリ見える。
体は布団に真っ直ぐの状態で動けない。
「動け、動けっ」思うのだが体に力が入らない。
何とか目だけは動くので枕元の時計を見た、午前2時30分。
すると急に寝たままの状態で背中に水でもかぶせられた様に
ゾゾゾゾーっと寒気がした。
「冷たいっ」と思うと体が動く。
全身汗びっしょりだったが気絶したらしく
次に気が付くと、もう朝になっていた。
また夜になり昨夜を思い出すとなかなか寝付けなかったが
疲れからか知らぬ間に眠っていた。
そして、また夜中にパッと目が覚めてしまった。
耳鳴りがしていて起き上がろうとしたが体が動かない。
「まただ」
だが何だかものすごく怖い。
目だけは動くので部屋を見回すと寝ている足元に人が立っている。
心の中では「うおぉぉー」と思っているが声が出ない。
立っているのは白装束で髪の長い女だった。
顔はモヤがかかった様になっていて見えない。
心の中で願った。
「怖い、怖い、怖い、動けっ動けっ!」
なんとか動かそうともがいていると女が少しずつ、こっちに向かってくる。
畳を擦る音が聞こえてきた。
――ズ、ズズッ、ズ、ズ・・・・
まるで生きている人の様に死装束で、ふっくらと質感があり
袖の袂が、だらんと下がり手が見える。
髪が長く顔だけモヤがかかっているように見えない。
じわり、じわり、その女が近づいてくる。
――ズズッ、ズ、ズ、ズズ・・・・・
「動け動けっ!」心の中で叫び、もがくうちに急に体が動いた。
「うわあぁぁあーああああー!!」大声を上げ飛び起きた。
女は、いなくなっていた・・・
全身汗びっしょり恐怖で今度は腰が抜けて立てなくなった。
「あれぇ・・あれっ?」
右に左に転がって
―ドタン!、バタン!と引っくり返りながら四つん這いで廊下に逃げ出した。
そして朝になり社長に退社を申し出たのだという。
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