第7歩 寮生活の思い出
私が小学生の頃、夜TVで心霊特集番組を見ていると突然、母が
「こったらものっ!おばけなんて居る訳無いでしょっ!」とヒステリーを起こしTVを消された事があった。
その時、子供の私は
「ああ、うちの母は、こういうの信じない人なんだなぁ」と思った。
だが、お盆には墓参りやら先祖供養やら矛盾した行動をするのが理解できなかった。
居る訳が無いと発言したり先祖の霊を供養すると言ったり
『勝手だなぁ』と思っていた。
青森・恐山に近い村で生まれ育った母親は実は何かを見たり聞いたりしていたのではないかと今になって思う。
ヒステリーを起こす母は鬼のようだった。
多分、何かが怖かったのだろう・・・
後ろめたい過去は大きさに差はあっても誰にでも、あると思う・・・・
怒り出したり突っかかってきたり
「幽霊なんて居ませんよ」
今でも時々、人に、そう
土木業のIさんから聞いた話。
Iさんは若い頃、会社の寮で生活していた。かれこれ30年前の事。
その寮は木造二階建で元々は下宿屋さんだった。
一階には風呂場と食堂があり部屋が二部屋、二階には四部屋、八畳間で一人寝起きするには充分な部屋だった。
月曜日から金曜日まで朝と夜の食事付き、朝は、おにぎりと目玉焼き、お味噌汁、食べない者はそのまま仕事に持っていき弁当替わりにもなって大変評判が良かった。
土日、食堂は休みだったが出かけない者は残ってゲーム大会をして楽しい寮生活だった。
入居して、ひと月程経ち寮生活に慣れた頃、二階、一番奥の部屋に住むS君がIさんに部屋を代わって欲しいと頼んできた。
「それが駄目なら今晩Iさんの部屋で寝たい」とまで言ってくる。
「いったいどうした?」
あきらかにS君の様子がおかしい。
残業だった他のメンバーも次々、風呂から上がり食堂に集まってきた。
給仕のおばさんは晩ご飯の支度が終わると早々に帰宅するので仕事仲間だけになる。
みんなで食事しながらS君に事情を聞くと
「夜、金縛りになって眠れない」と言う。
S君は前日に給仕のおばさんに何か心当たりはないかと聞いてみたが
「わからない」という返答だった。
一階の寮に住んで2年になる先輩に聞いてみた。
「そういえば前に、お前の部屋に居た奴もなんか変な事言ってたなあ、そいつは一週間で辞めたから詳しくは聞いてないよ俺が現場から帰ってきたら、もう居なくなってたし・・・」
別の先輩も居たが、わりとぶっきら棒な人で飯が終わると焼酎あおって朝まで大いびきの人だ。
「なんも知らねぇなあー、うはぁーっ」あくびをかいている。
その時、半年先輩のRさんが口を開いた。
「お前、馬鹿だなぁ金縛りってのはなあ、疲れて寝てる時に脳だけが覚醒して体は眠っている時に起こる生理現象なんだよ、バァーカ」
S君を軽蔑した態度になった。
そこでS君は弁解をはじめた。
「いや最初は自分も、そう思ったんですけど、ここ最近、部屋の奥、足元のところに女が立っているんです。顔がぼやーとして見えない白い服で髪の長い、そんなのが出るんです」
S君は、その他にも階段を上がってくる音や耳鳴りの話をした。
だがRさんは一向に認めようとはしない。
「幽霊なんて、いねーんだよ、脳の誤作動なんだよ!」
S君の話を否定した。
S君は弟や妹のために家賃と食費などを除き給料の半分以上を実家に仕送りしている感心な青年だった。
そんなS君を馬鹿にするRさんをIさんは、なんだか許せなくなってきて、つい感情的になりS君を擁護した。
「そんなに言うならRさん、S君と部屋、代わってあげて下さいよ幽霊なんか居ないんだから代わってあげてもいいでしょう!」
するとRさんは
「荷物が面倒くさい」とか「なんで、そんなんで俺が」
ごちゃごちゃ言い訳をしだした。
様子を見ていた大あくびの先輩がRさんに睨みを効かして、こう言った。
「てめぇ散々Sを馬鹿にしておいて、おかしいじゃねぇか、あぁん?
馬鹿にした責任取れやあっ!」酔っ払いながら怒鳴りつけた。
食堂内が静まり返りRさんは
「わかったよ・・・」と了承した。
元々、皆たいした荷物もなくS君とRさんの部屋交換は、その晩あっさり終わった。
数日が経過して最初は、どうなるかと思ったがS君は平常に戻りRさんも平気な様子だった。
部屋の交換から、ひと月経った頃。
真夜中に
「うわああああーっ」悲鳴が上がり、その声が寮内に響いた。
Iさんはびっくりして一瞬、目を覚ましたが
部屋を交換したRさんの部屋から
―ドタン!バタン!と音がする。
「さては・・・Rさんの部屋にでたなあー」
Iさんはニヤリとしながら寝返りを打ち眠りなおした。
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