第41話 家族
なぜか、ずっと昔から、父親の病気を知っていた。
千歳は虫の知らせや直感ではなく、その事実を知っていた。しかし、知っていたのに理由は分からない。思い出そうとするたびに、頭にもやが立ち込めてきてしまう上に、ひどい頭痛がするので、思い出すことは止めた。
知っていた理由を探すことを止めて、千歳は家族と一緒に過ごすことに全力を注いだ。
この地球上で、誰が一番自分のことを愛しているかを知った。両親は、帰ってきた千歳を迎え入れ、懐の深さに千歳は胸を打たれた。
例え病気が蝕んだとして、寿命を刻一刻と縮めているのであれば、最期のひとときまで、ずっと一緒にいたいと思った。
再就職は、それからしてもいいと思っていた。
その千歳の願いは叶った。
余命数ヶ月と宣告されてから、父は一年ほど生きた。父の最期を看取るのは辛かったけれども、心の準備ができていて、そしてなぜか、天国でチビが待っていてくれているのだから大丈夫と、確信していた。
そうぼんやり思うのではなく、確信できた。天国の門の前で、チビが尻尾を振っているのが千歳には分かっていた。
兄も夏前には帰国し、家族四人で過ごした。
いったんバラバラになっていた家族は、やっぱりどんなことがあっても家族のままで、一生、死ぬまで家族なのだと改めて思っていた。
最期まで必死で生きる父の背中は愛おしく、笑った顔を忘れないように、瞼のシャッターをたくさんきった。
そうして父の葬儀が終わったのは師走の終わりに差し掛かったころで、千歳は凍えるほどに寒い海岸へと、毎晩のように出かけてはぼうっと海を眺めていた。
とてつもなく寒くて、もはや身体の感覚がなくなるかと思うほどだったのだが、それに相反して心は落ち着いていた。
その日はクリスマスイブの夜だった。
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