第37話 プレゼント

「どうかな、気に入らない?」


 固まってしまった死神に、千歳が今度は心配そうな顔をして覗き込んできた。死神はほんの少したじろぐと、息を吸った。


「いえ、とても光栄です。私がいただいていいものか、考えていました」


「私が死神の名付け親ってわけね。なんだか、めちゃくちゃすごいことしている気分ね。神様に名前つけるなんて」


 ふふ、と千歳は笑った。その嬉しそうな笑顔を見て、死神はほっとする。


「昴、すばる。うん、やっぱりいい名前。星の名前だもん、きれいだし。冬の星座の中でも、私も一番好き。青くてきれいだもん」


 ね、と千歳が振り返ると、死神は真面目な顔をしていた。元々表情は乏しいのだが、何かを考えている顔をしてる。


「どうしたの?」


「何か、お礼をと思いまして…」


「別にいいわよ。私のわがままにつき合って一緒に帰省してくれているわけだし」


 その千歳の言葉を無視して、死神は考え込んだ。千歳がもう大丈夫だからと苦笑いしたとき。


 すっと。


 死神の顔が近づいてきた。


「え?」


 唇が、ふと触れ合った。


 ほんの少しだったのだが、物質を感じない魂魄の状態の千歳にとって、それは強烈な熱さだった。


 死神の唇が重なった千歳の唇から、ものすごい熱が全身を駆け抜ける。


 顔中が火を噴くように熱くなった。


「――クリスマスプレゼントです。あなたが、私に名前というプレゼントをくれました。お返しです。人間は、相手に対する愛情や幸せや感謝を、口づけで表現すると習いました」


「…ばか」


 千歳はまともに死神が見られなくなって、そっぽを向いた。


「何か、違っていましたか? それとも、足りませんか?」


「足りてる! っていうか、何なのその教科書に書いてあったみたいな言い分は……」


(色気とかそういうの全くない!)


 ちらりと見ると、死神は何か間違えてしまったのかと、心配そうな顔をしていた。


「あのねっ、恋人だったらそれで正解! でも、あたしと死神じゃちょっと不正解」


「そうですか……千歳さんが喜んでくれると思ったんですが。人間の感情や行動は複雑で……難しいものです。勉強し直します」


 いいわよ、と千歳は肩から力を抜いた。いまだに心臓がバクバクするかのように、心が騒ぎたっていた。


「……ありがとう、死神——昴」


 千歳は死神に寄りかかると、その心地の良い波動に、身を沈めた。

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