第38話 チャンスの神様
死神と一緒に過ごしたクリスマスイブは、千歳にとって今までで一番美しい日だった。
それこそ、このまま死んでしまってもいいやと思えるほどに、美しかった。
海岸でクリスマスプレゼントを渡された翌日。
クリスマス本番の日。
本物のクリスマスプレゼントが渡されることになる。
***
それは、あまりにも唐突だった。
「ん?」
翌日の朝、朝ご飯を家族と一緒に過ごし、そして千歳と死神は海へと出かけた。仕事をしている死神からほんの少し離れて、千歳が波打ち際で触れられない波を追いかけて遊んでいた時だった。
目の前に、突如人が現れた。
「やあ、こんにちは、千歳くん」
本当に目の前に、音も何もなく現れたその人間は、その登場方法と会ったこともないのに千歳の名前を知っていることから、人ではないことを千歳は悟った。
「こん、にちは……えっと、あなたは誰ですか?」
戸惑う千歳に、その目の前に突如現れた青年はにっこりと微笑んだ。
「ん? 僕は、通りすがりの神だよ。千歳くん、君にチャンスをあげに来たんだ」
「なにそれ、チャンスの神様!?」
ふふふ、と青年は笑う。千歳はその笑顔を見て、なんで今まで気がつかなかったのだろうと驚いた。その青年は、驚くほどの美形だった。
「そう。チャンスの神様。チャンスの神様は、前髪しかないから、通り過ぎる前に前髪を掴まないとダメって、入社したときに教育担当の部長が言っていたよね?」
「……なんで、それ知って……」
千歳が驚きと戸惑いを思い切り顔に出すと、青年が一歩進んできて、あっという間に両手を伸ばして千歳の両頬を包み込んだ。
温かさも、冷たさもない手のひら。しかし、触れられている感触だけが妙にリアルだった。
まっすぐに千歳を覗き込んでくる、水底を連想させるかのような深い瞳に、千歳は思わず目を見開く。
ぐ、っと近寄って千歳を覗き込む。瞬き一つしない青年は、明らかに千歳の知る世界に生息しているものではなかった。
青年は、恐ろしいくらいに整った顔で、千歳を見つめてくる。生きた人形に見つめられている気分だった。
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