第35話 サークル

 空を見上げると、おうし座がきれいに見えた。冬の星座が、日本海側のこの寒い地域で見えるのは珍しい。


 千歳はふと思い出したように笑って、死神が首をかしげた。


「あれ、プレアデス星団だよ」


 千歳が指を差す方向へ死神が顔を向ける。そこにはひときわ青い星々が光っていた。


「こっちが、オリオン座……この線をなぞっていった先、プレアデス星団…」


 へえ、と死神が感嘆の息を漏らした。


「あたしね、学生の時、天文学サークルだったの。あたしの性格じゃ信じられないかもしれないけど、星の話ってロマンチックで好きで。この地域だと冬の星空はあんまり見えないから、関東の大学に行ってよく見えた時はびっくりしたな」


 千歳は冬の星空を見上げながら、昔を思い出した。


「先輩のこと好きになってね。かっこよくなかったんだけど、すごく星に詳しい先輩で、先輩と話すのが楽しくて、サークルに入り浸っていたの。だけどね」


 そこで千歳は苦笑いをした。


「だけどね、仲のいい友達も、先輩のこと好きだったの。話があるんだって言われて聞いたら、そういうことだったの。あたしね、友達に応援してるねって言ったんだ」


「なぜです?」


「だって、自分も同じ人好きだなんて言えないし。それを言ったら、友情が崩れる気がしたの。そしたら、いつの間にか二人がくっついちゃって」


 千歳は大きく息を吐いた。まるで、過去の思い出と決別するかのように。


「あたしは、言えなかった。その子と同じ、彼女になりたいっていう土俵にも上がれない臆病者なんだよね。それを隠すために、気を張って、気が強くなってばっかでさ口まで悪くて…結局、その女友達とは、卒業以来連絡も取っていないの。あたしが先輩を好きでいようが、あたしが告白していようが、結局壊れる友情だったんだよね」


 告白、しておけばよかったなと千歳は呟いた。



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