第27話 海上の踊り
「……死神、砂を触りたい」
「いいですよ」
千歳がそう言うと、死神が浜辺の砂を一掴みして、両手を出した千歳の手のひらにさらさらとこぼしていく。
ひんやりとしてさらさらな砂。手のひらに乗せたそれをじっと見つめて、千歳は合わせた手の隙間から、するすると落とす。
途端に風になびいて砂は飛んでいった。
「もう少し、触りますか?」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
いつのまにか夕日が雲間から差し込んで来ていて、分厚い雪雲の隙間からちらちらと顔を覗かせている。
光の加減で、雲が幻想的な色合いになっているのを、座ってただただじっと見ていた。
死神も横に座ったまま、何も言わずにいた。
「こんなに、ぼうっとしたのって久しぶりだわ」
「私もです」
「死神も忙しそうだもんね」
「ええ、まあ。忙しくしているのが好きなのかもしれません。補佐たちは、今頃忙しくしてるのかと思うとなんとも言えませんが」
それに千歳はふふふと笑った。
「いいじゃないの、あたしに付き合うのだって、仕事なんでしょ?」
「そうなんですが、あんまり仕事感がないもので」
「ゆっくりしよう。もう少し、いてもいい?」
「もちろんですよ、千歳さん」
そしてゆっくりと二人で並んで沈んでゆく夕日を眺めていた。
暗くなり始めると、あっという間に辺りに闇が押し寄せる。街灯がある道は薄ぼんやりと明るいのだが、海は尋常ではない暗さとなる。
まるで、大きな底の無い黒い穴が空いたかのような。夜の海は恐ろしい。
白い波と、波の音だけが、それが海であるということを分からせてくれる。
千歳がじっと黒い海を見ていると、白い波の上に、ぽわり、ぽわりと青白いものが浮かび上がってきた。
青白いそれらは、海から浮かんでくると、海面をゆっくりたゆたい始める。
「なに、あれは…」
初めて見る光景に、千歳は目を見開いた。
「魂魄ですよ、海で亡くなった方々の」
死神が静かにそう告げると同時に、青白い魂魄や白っぽい魂魄が海の上で踊り始めた。否、踊っていないのかもしれないが、まるでそれは、海面でダンスをしているかのように見えた。
「……きれい」
漁火のようにそれらはほわほわと揺らぎ、滑らかに海面を踊り、跳ねる。
「本当に、きれい。魂ってこんなにきれいなんだね」
「ええ」
ずっと見ていたいと思ってしまうほどの美しい魂の動きに、千歳はまたもやしばらくそれを眺め続けた。
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