第22話 助けない
「ま、彼氏いたところでね。それどころじゃなかったから、いまさら別にいいんだけど」
そうですか、と死神は相槌を打ってから正面を見た。すでに窓の外は雪国で、真っ白な雪ばかりが目に痛いくらいに見えていた。ぽつぽつと白いものが降っているのを見れば、外はだいぶ冷え込んでいるに違いなかった。
「あたし、真面目に生きていたつもりだったけど、相当ひねくれていたわけね。神様が助けてくれないわけだわ」
「神は人を助けませんよ」
「え?」
その答えに、千歳は目を見開いて死神を見つめた。そんなに驚く話ですかと死神も目を丸くする。
「千歳さんの周りに、困っていたら目の前に神が現れたって人、いませんよね?」
「そりゃそうだけど……でも」
「だから、神は助けませんよ、人を」
「その答えはあまりにも、この世の中が無情に思えてき来るけれど?」
それに死神はふと優しい顔をした。
「助けませんけど、助け船くらいは出します。ピンチだったけど、なぜか奇跡が起きたとか、タイミング良く欲しいものが手に入ったとか。そういったことは、神がほんの少し手を貸してくれた証拠です。全部を助けてしまったら、それこそ成長しませんからね。なんのために、魂を肉体に入れてまで成長させるのか、意味が分からなくなります」
「不運ばっかりの人だっているじゃん。それはどうして?」
「理由は一つではありませんから、一概にこうとは言えませんけれども。気持ちの問題ですかね」
「え、そんなものなの?」
「そんなものですよ。神は限りなく不公平です。人生も、限りなく不平等です。全員が平等だったら、学ぶことができません。ですから、不平等で、不公平な世の中に、あえて魂を投入することで、学ぶことができます」
人生は何かを学ぶためにあるのだと、どこかの歌手が歌っていたのを千歳は思い出した。学ぶための不公平。学ぶための不平等。それは、そうだと知っていれば、対処できるものかもしれないし、妬みや嫉妬などというものを起こさないように思えた。
「そしてそれは、生まれる前に自分自身が選んだ境遇なんですよ。学び足りないから肉体を持って地球に生まれる準備をして、その学びがあるところにあえて自分の魂を投入させるのです。ですから、その人の周りに起こることは、その多くがその人が引き起こしていて、引き起こすように自分で望んでいて、そこで学ぶことがあるからそうやって準備しておいたものなんですよ」
「じゃあ、全部自分が選んだってことなの?」
「そうです。むやみやたらと意味もなく生まれては来ませんから」
確かにそうだ、と千歳は思った。なんの意味もない人生を送るなんて嫌だと、いつでも思っていた。そうだからか、ドラマチックな人生だったと我ながらに思うことが多くある。
「だったとしたら、あたしはずいぶん破天荒な人生を選んだみたいだわ。いったい何を学んだのやら……」
「死ぬときに分かりますよ、きっと。誰も、生まれた意味なんて分かりません。分かって生まれてきていたら、それこそテストのカンニングと一緒です」
時計を見れば、もうすぐ、目的地に着く時間だった。
「答えの分かっているテストで満点を取ったとしてもそれは不正ですが、答えが分からないからこそ悩むし、頑張って解こうとするんです。人の人生ほど、面白いものはないと私は思いますよ」
死神は心底、人間が羨ましいという風な口調でそう言った。
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