第14話 確認

 人生一度きりとはよく言ったものだ。


「ほんとに、一度きりだったとしたら、こんな人生になるもんかってもっと必死になっていたかもしれない」


「今までのあなたの行いを見ていると、人生に投げやりにはなっていなかったように思えますが」


「ちょっと、あたしの人生資料見てるわけ?」


 それは、急に着替えを覗き込まれたかのような恥ずかしさを千歳にもたらした。


「そうですが、問題がありますか?」


「大ありよ! 恥ずかしいじゃないの!」


「そう言われましても」


「死神はあたしの人生チェックは管轄外じゃないの?」


 それに死神は瞬きをしてから資料を閉じる。


「私が最初に差異に気づいたので、その報告やら何やらをしなくてはですし、千歳さんは私の担当ですから、ないがしろにするなんてことはできません」


 ないがしろにするわけにはいかないと言われた部分に千歳は嬉しくなったのだが、よくよく考えてみて、冷静になる。


「死神があたしの担当ってことは……肉体にあたしが戻れたとして、また人間として生活し始めて寿命で死んだとしたら。その時に現れるのは、あなたなの?」


「その可能性は高いのですが、まだ分かりません。人事異動もありますし、今は確実に担当ですが、担当を外される可能性だって十二分にあり得る話です」


 千歳はまるで社内で先輩と話をしているのかと錯覚してしまった。


「いろいろあるのね、神様にも」


「ええそうです。とても厄介なこともあります。でもそれ以外は死神の仕事は、特に難しくもなくて、報告処理さえきちんとできれば、誰にだってできますよ」


 なんだか千歳は、神様たちが働いているのは、実は丸の内のオフィスなんだよと言われても、いまさら驚かないぞと思うようになっていた。


 残業手当つきで、ボーナスももらえるというのでホワイト企業ではあるという話を聞く限り、何やら人間の会社のシステムと変わらないように思えていた。


「あんまりじろじろ見ないでよね、あたしの資料」


「そういうわけにもいきませんから」


 すまし顔でそう言われるとなんだか腹が立ってしまい、千歳は資料に目を戻した死神を覗き込んで、思い切りあかんべーをした。


 それに死神はほんの少し驚いた顔をしたのだが、すぐにあきれて息を吐いた。


「千歳さん。子どもじゃないんですから」


「子どもだもーん」


「都合のいい時だけ子どものふりしないでください。それとも、こちらの資料に魂魄状態を確認中の千歳さんは子どもっぽいって書いておいた方がいいですか?」


「わ、わ、やめて!」


 慌てて死神から資料をひったくり、そして、突き返した。


「大人しくする。仕事して」


「もちろんです」


 死神は事務的に返事をすると、またもや資料の山に埋もれた。不愛想でビジネスライクな姿だが、ぴちっとスーツを着こなす姿も、しっかりと仕事をしている姿も、千歳は見ていて気持ちが良かった。


 死神を見ていてもつまらないので、視線を外へと向ける。ビルが青空を切り取って流れて行った。

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