第5話 ミス
「私は、
死神は少し困ったような顔をして、首をかしげた。
「それが、あたしと、もう一人の千歳さん?」
「そうです。私が慌てて調べ直していると、どうやら誰かが名前の読み仮名を間違って入力していたようで、そのミスに気付かないままになってしまっていたようです。そして、さっきの死神が派遣されていることを知って、私は大慌てで上に報告して現場へと向かったんですが、止める寸前であなたは死んでしまいました」
もう少し申し訳なさそうにしてほしいものなのだが、業務内容を淡々と伝えている目の前の死神は、いかにも仕事をきちんとこなすタイプのように千歳には見えた。
「で、誰のミスなの?」
「調べていますので、お答えできかねます。ですが、本当に死ぬ予定だったのは、
千歳は溜息を吐いた。紅茶を一気に喉の奥に流し込むと、熱い紅茶が喉を伝っておなかに流れ込んでいくのを感じた。――死んでいるのに。
「住所だって違ったでしょ。なんで気づかなかったんだろ?」
「私たちには住所というものの概念がありませんので、ただの入力ミスとして処理されたんでしょう」
神様たちに住所という概念がないことに千歳は驚いた。
「だって、住所が違えば、郵便だって届かないじゃない?」
「私たちは思考を共有できます。ですから、その人間や神の情報があれば、その人がどこにいて何をしているのか瞬時に分かります。なので、あなたには間違って、
それを聞いて千歳は、まさかと思った。
自分がしたことではないのに、急に上司が怒ってくることはしょっちゅうあった。さらに、してもいないことを褒められることもあった。
――それが、まさかの人違いだったとは。
「その感じですと、心当たりがあるようですね。それは、私たちのミスです。
「その割には、困惑している顔じゃないけど……」
「私たちには、人間に備わっているような感情部分は乏しいのです。さっきのアロハシャツの死神は、まあ、その、人間よりの反応をするタイプということです」
いつの間にか外は夕焼けになっていて、カラスが鳴いていた。
「私には助手が二人います。とても優秀な助手です。彼らにこの案件の調べはつけさせますので、
真面目な顔でそう言われた千歳には、その言葉が死刑宣告のようにさえ感じられた。
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