第13話 ビーンズ先生
ソルディオス・ビーンズはセント・ルメール大聖堂孤児院附属医局長である。
彼は長身で、茶色の長い髪を後ろに一つ結びをしている。
片田舎の小さな宗教の大聖堂についている孤児院附属の医務室に勤務している彼だが、本当はこんな所にいて良いような人材ではなかった。
彼の実家はこの国の西部を仕切っている地主で、彼はいわゆるボンボン。
頭と才能に恵まれた彼は王都にある魔法大学で学びを受け、治癒魔法師になった。
魔法大学附属の医院に努めるはずだったが、現在の奥方である当時の恋人の実家がセント・ルメール大聖堂の近くにあったことで、彼はこの土地に移ることにした。
「ビーンズ先生っ」
昼食後のコーヒーをまったりと飲んでいると、このゆったりした空気感を壊すように、とあるシスターが食堂にいるソルディオスの所へやって来た。
血相を変えたそのシスターは、ソルディオスに近付くと直ぐに状況を伝えた。
「ポーラが倒れました。」
その一言だけでも、ただ事ではないことが分かる。
ポーラはソルディオスがこの医務室に勤めてからの最初の患者である。
小さな身体で、大きな魔力を抑えることはとても大変なことだ。
ポーラは自身の魔力が強く、お産の時も母親の身体が危機に瀕する程のものであったらしい。
立ち会っていないのでまた聞きだ。
直ぐに医務室へと向かうと、角の丸椅子に小さくなっている子供を発見するが、今はそれどころではない。
閉まっているカーテンを開けると、真っ青になっているポーラの姿が見えた。
「ポーラ、聞こえるか?」
「う、うぅ…」
ポーラのバイタルを確認すると、若干危険な状態。
この身体の力を借りることはしない
その代わりに、私の力を捧げよう
母なるこの星の力を貸し賜え
ケアライト
ソルディオスが魔術を使うと、ポーラの顔色は元通りになった。
元々、そんなに顔色が良いわけではないので、少し青い顔をしているが…。
「まぁ、取り敢えずは、最大の危機は脱した。」
「ああ、ビーンズ先生、ありがとうございます。」
「いえいえ、これは私の仕事だから。ところで、あそこで小さくなっている女の子は誰かな?」
「あ…、忘れていたわ。あの子はミカエル・パースよ。」
「ミカエル…、彼女がここへ?」
「いえ、先生。彼女に呼ばれたシスターがここへ。」
「なるほど…」
自分達、大人の手柄ばかりを意識させようとするシスターの態度に少し怒りを覚えつつも、ソルディオスは表には出さずに、ミカエルのそばへといく。
「ミカエル…」
その後、ミカエルにポーラについて教えてやることにした。
ミカエルが説明されたことの全てを理解できるなど、思ってもいなかったが、聞きたそうな顔をしていた。
それに、この大聖堂の人間の誰よりもポーラについて理解していると思ったからである。
ミカエルは、しょんぼりしながら部屋に帰っていった。
「はぁ…」
命を扱うということはとても重いことである。
それは時にとてつもなく大きなストレスを与える。
ミカエルは、『治癒の才』があるらしい。
彼女は明日から、医務室へ入りびたるであろう。
「ミカエル…、彼女は良いお医者さんになるかもしれない。」
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