第11話 ポーラの病気
夏が訪れた。
ミカエルとポーラは孤児院の中庭で遊んでいる子供達を図書館から眺めていた。
「ミカエル、最近調子はどう?」
「何その質問?」
「私はね、実はそんなに良くないの。」
「まぁ、ポーラはね。私は…、いつもと変わりないかな。」
「そっかぁ。」
ポーラは自身の強い魔力が身体に影響し、身体が弱い。
いくつか疾患を患っているらしく、一部は治癒魔術で治っていたが一部は治らずじまいである。
「ポーラ、その本何の本?」
「あ、これ?これはね、インテリアの本だよ。」
「いんてりあ?」
「うん、椅子とかテーブルとか。」
「へぇ、面白いの?」
「うーん、別にかな。でも創造魔法の参考になるから。」
ポーラは勉強熱心だ。
自分の才能が『創造の才』であることが分かった時、とても喜び、そしてその後は物作りに励んだ。
彼女の作るものはいつだって、最高の物で、ミカエルはそれに憧れていた。
昼食を食べ終えて、ミカエルとポーラは多目的ルームへ来ていた。
午後は決まって、この部屋に来るのだ。
ミカエルは怪我した子供の治癒を練習できるし、ポーラは創造魔法を好きに使うことができる。
ポーラが創造魔法で緻密な時計の模型を作っているのを眺めていたミカエルは、自分も何か作ってみたくなった。
「ポーラ、創造魔法を教えて。」
「え、これって、教えられるのかな…」
「…、確かに。他人に教えることってできるのかな?あ、でも意識していることとか色々あるでしょう?」
「創造魔法は基本、無詠唱だからなぁ」
そう言いつつ、ポーラはしっかり考えてくれていた。
『うーーーーん』と眉間に皺を寄せて、悩む人の体勢をとっていた。
バタンッ。
「え、ポーラ?」
考えすぎたのが悪いのか、調子が悪いのを無理していたのか定かではないが、ポーラが突然その場に倒れてしまった。
声を掛けても返事はない。
顔面蒼白、呼吸は浅い。
(どうして…?どうしよう…)
「シスター⁉」
その場にいるかいないかも分からなかったが、取り合えず大人を呼ぶべきだと思いミカエルは自分でも気が付いた時には一心不乱で呼びかけていた。
ミカエルが叫ぶことなどないので、驚いたシスターの一人がその場に駆け寄ってきた。
「ポーラが…、ポーラがぁ」
「ミカエル、大丈夫。ポーラを医務室へ連れて行くわ。」
そのシスターにはここにいるようにと言われたが、なぜだかミカエルは後をしくしく泣きながらついていった。
シスターもそれに気付いていたが、黙って知らないふりをしてくれた。
初めてできた友達、とても大切な友達が目の前で突然倒れたのだ。
ミカエルはショックだった。
医務室の中にまでついていったミカエルは、部屋の角にある丸椅子に丸まって座って待っていた。
ただひたすらにしくしくと泣いていると、血相を変えた白衣を身に纏った長身の男が入ってきた。
「ポーラは?」
「こっちです。」
ポーラの診察と処置は1時間にもわたった。
ミカエルはそれを時が止まったような感覚で、終わるのを待っていた。
処置が終わると、長身の男がカーテンから顔を出した。
ついてきたミカエルを発見すると、『大丈夫』とウインクをしてくれた。
「ミカエル、と言ったかな?」
「え?」
突然、名前を呼ばれて驚いたミカエルだったが、知らない人だというのに恐怖は感じなかった。
「さっき、シスターから聞いたよ。君がすぐに呼んでくれたから、ポーラは助かった。」
「ポーラ、大丈夫?」
「ああ、君はポーラの親友かな?」
「うん。いつも一緒。」
「じゃあ、君だから教えるけど。ポーラは今は大丈夫だけど不安定になっている。だから彼女は暫く医務室にいなければいけないよ。」
「うん。」
「沢山、お見舞いに来てくれるかな?」
「うん。ポーラの病気って…?」
「ポーラの病気はね…」
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