第10話 親友:ポーラ・ジェーキンス

ミカエルは、シスター・ミリセントに少し腕を引っ張られるような形で、引きずられていった。

一体どこに連れていかれるのか?

シスター・ミリセントの輝いたような嬉しそうな眼を見る限り、そんなに悪いものでもなさそうだが。


「シスター、どこへ連れて行くの?私は、部屋にいるの。もう、部屋から出たくないの。」

「ミカエル、今は勇気を出すところよ。頑張って。」


シスター・ミリセントにそんな風に言われたことなかった。

彼女はいつも、ミカエルの意見を尊重して、ミカエルのしたいようにさせてくれた。

だから、ミカエルの意志とは反してシスターが何かアクションを起こすのはミカエルの不安を煽るものであった。

ミカエルは次第に泣きそうになっていた。


「シスター・ミリセント。私を部屋に帰して。」

「ミカエル。」


丁度、ミカエルの部屋と孤児院の多目的ルームの中間地点当たりでシスター・ミリセントは足を止めた。

決して、ミカエルが『部屋に帰して』と言ったからではなく、何かを伝える為である。


「あなたの才能は『癒しの才』よ。これはこの間私が言った『音楽の才』ではないけど、そんなものよりももっと高貴で、貴重で、重要な才能なのよ。この才能を持つものはこの世界にも指折り。あなたはあなたの力で誰かの傷をいやすことができるの。」

「『傷を癒す』?」

「ええ、とにかく、今からそれを実証するから私についてきてちょうだい。そうしたら、あなたへの意地悪もなくなるわ。」


シスター・ミリセントは確信していた。

ミカエルは世にも珍しい『治癒魔術』の使い手になれると。

だから、ミカエルは誰かに傷付けられて良いような人間ではない。

ミカエルへの意地悪に終止符を打つためにも、ミカエル自身が皆に自分の力を見せつけなければならないと思った。

それは、ポーラ・ジェーキンスと話したから思いついたのだ。

ポーラには子供達を多目的ルームへ集めるように言ってある。


「では、行くわよ」


シスター・ミリセントと共に多目的ルームへ到着すると、そこには既にミカエルと同世代の子供達が集まっていた。


(一体、何をするというの?)


「皆、今からミカエルの才能を披露するわ。怪我している子はいるかしら?」

「あ、さっきポーラが転んでたよ。」


ポーラの膝には出血があった。


「あらあら、ポーラ。転んでまで集めてくれたのね。ありがとう。」

「う、うん。」


少し照れたようにポーラは返事した。

そして、皆の見ている前に椅子を置いてそれに座った。


「ミカエル。では初めて。この間私にしたようにするのよ。」

「この間?」

「この間のお歌よ。」

「………はい」


本当は嫌だった。

あの曲は大切にしたかった。

自分が初めて作った歌だから。


生きていく この命を 誰にも奪われはしない この命だけは 私は不治の動物

生きていく この体で 誰にも汚されはしない この体だけは 私は高貴な物体

生きていく 美しき世界 誰も知らないだろう この世界の話 妖精はここにいる


歌い終わる頃には、ポーラの傷が無くなっていた。


「おー。」

「すごい…」

「もしかして『癒しの才』って」

「ミカエル、ありがとう」


ポーラは治った足を見てミカエルに礼を言った。

そして、シスター・ミリセントは言った。


「そうよ。ミカエルの『癒しの才』は『治癒魔術』の事よ。あなた達が言っていたようなものではないわ。」

「…」

「…」

「…シスター、ポーラ、ありがとう。」


ミカエルは自分の力の正体を知ることができて安心した。


「今日の発表を思いつくために意見をくれたのはポーラよ。」

「ポーラ、ありがとう」

「いいえ、私もあなたのこと、少し苦手に持ってしまっていたから…」

「いいのよ、そんなこと…」

「ミカエル、私と友達になってよ。」

「ええ。宜しく。」

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