第6話 セント・ルーメル大聖堂附属孤児院

ミカエル・パースはその後、実の祖父母の判断によって、ルーメル教の孤児院に預けられることになった。

孤児院での生活はそんなに良いものではなかった。

セント・ルーメル大聖堂附属孤児院では、生まれたての新生児からこの国での成人を迎える年齢である15歳までの子供を預かっていた。

年長の子供は基本的に反抗期を迎え、状況を悪くしてから皆、自分の意志で孤児院を出て行くし、年少の子供はさらに年端もいかない乳幼児を虐める。

協会の職員や孤児院の職員達はそんな、自分勝手は振る舞いばかりする子供達に手を焼いていた。

ミカエル・パースもまた、そんな子供達に虐められながら成長した。


7歳になったミカエルも、その場を乗り切る術を身に着けた。

それは誰かを傷付けるようなものではなく、傷付けてくる相手から自分を守る術である。

ここで平和に生きていくには、自分を守ることがとても大切なのである。

しかし誰にも手を出さない、人の気を遣いまくる、そんなミカエルを子供達は良く思わなかった。

気付けばミカエルは一人ぼっちになっていた。

皆、それぞれ仲の良い子供がいるのだが、ミカエルには居なかった。

いつも一人で過ごしていた。

そんなミカエルにも好きな時間があった。

それは、音楽に触れている時である。


音楽は大好きだ、音楽だけは私を裏切らない。

音楽だけは私を優しく包み込んでくれる。

『生きていく この命を 誰にも奪われはしない この命だけは 私は不治の動物』

そんな歌詞を口遊む。


「あら、良い曲ね。どこで覚えたのかしら?」

「シスター・ミリセント。この曲はね、私が考えたの。」

「良いわ良いわ。もっと聴かせてあそばせ。」

「えへへ、ありがとう。えーとね…」


シスター・ミリセントも大好き。

彼女は虐められている私を子供達から庇ってくれた。

それだけではなく、私に音楽の美しさを教えてくれた。

この最悪な世界でも、こういう美しい心の持ち主はいるのだなと安心したものだ。


その曲はこう続く。


生きていく この命を 誰にも奪われはしない この命だけは 私は不治の動物

生きていく この体で 誰にも汚されはしない この体だけは 私は高貴な物体

生きていく 美しき世界 誰も知らないだろう この世界の話 妖精はここにいる


最後まで、歌い切ったところでミカエルは気が付いた。

つい、夢中になって歌っていたがミリセントは不思議な表情を浮かべていた。

それもそのはず。

ミカエルが歌っている時、全ての時間が止まったかのようになり、ミリセントの荒れた手の周りに金色の粉のようなものが降り注いだ。

あっという間に粉に隠されたミリセントの手は、ミカエルの過少が終わると美しく元通りの荒れていない綺麗な手になっていた。


「ミカエル、あなたは治癒魔術の才があるのかも知れないわね。」

「治癒魔術の才?」

「ええ、本当は、歌で治癒などできないわ。でもあなたはその美しい歌で私の手荒れを治したわ。」

「えへへ、ありがとう。」


褒められるのはとても嬉しい。

ミリセントは良い先生だ。

でも、『治癒魔術の才』とは一体何なのだろうか…?

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