第5話 ミカエル・パースの誕生

ミカエル・パースの物語はここから始まる。

今までの転生までの過程は、ただの過程でしかなく、小野田美香、いやミカエル・パースの物語は今やっと始まったのである。


目が覚めるとそこは、真っ暗な小さな部屋の片隅。

身体中に痛みを感じて起きたのだが、どうやら仰向けになっているらしい。

木造建築の狭い部屋の広い天井が見える。


(ここは一体…、誰かいないのかしら…?)


辺りを見渡そうと、起き上がろうとするがどうやったら起き上がれるのか、分からなかった。

横を向こうとすると、自分がダルマになったのかのように『ゴロン』と横になれた。

部屋にはミカエル以外の人がいた。

小さな少女で、まだ10歳にも満たないように見える。

彼女は絶望的な目をしていて、白い(部屋が暗くて色の判別がしにくいが、恐らく)ワンピースを身に纏っていた。

しかし、その足の間からは血液が流れており、ワンピースの股の所も汚れていた。


(一体何があったのかしら…?)


声を出そうとした瞬間、ミカエルは違和感を覚えた。


「あぅ~ぁ」


(ん?あれ?何でしょうか、この声は?言葉の使い方が分からない…。)


「ネノタイテキイ、カウイト。ヨテイテッマダ…。」

『黙っていてよ。というか、生きていたのね』


少女の声や言葉の意味はさっぱり分からなかった。

だが、その声は絶望的なあの目よりもさらに絶望的なものを持っていた。

自分に向けられたその目の冷ややかさが怖くて、ミカエルは感情を抑えることができずに、思わず泣いてしまった。


「ぎゃーーーーーー、おぎゃーーーーー!」


そして、階下からとても慌てた様な足音が聞こえてきた。

少女の両親とも思しき大人の人間が勢いよくドアを開けた。

開け放たれたドアの向こうにはヨーロッパ系の顔立ちの美男美女。

男女のとった行動は、少女とは少し違っていた。

これまたどんな意味の言葉を発しているのかは分からないが、何か言っている。


「ガアリマ。パパ、ウョシマシウド…。」

『どうしましょう、パパ。マリアが…。』

「ダンダンウヲアリマモミキ。イナハデテメジハハウョキウョジノコ、ブウョジイダ。」

『大丈夫、この状況は初めてではない。君もマリアを生んだんだ。』

「タッカナカヅキテンナタイテシンシンニガアリマ、シタワ、モデ…。」

『でも、わたし、マリアが妊娠していたなんて気付かなかった…。』

「ブウョジイダ。ダブウョジイダ。」

『大丈夫だ。大丈夫。』

「パパ…、ママ…。」


辛うじて、最後の言葉が両親を呼んだということだけ分かった。


その後、ミカエルは小さな桶に入った温かなお湯で体を洗われて、小さなふわふわとした毛布にくるまれた。

お腹が空いて泣いていたが、ミカエルの母親である少女は飢餓状態であったため、母乳は出なかった。

家畜である羊のミルクを貰い、ミカエルはそれを飲んだ。

ちょっと臭くて嫌だった。

ミカエルはお腹いっぱいになり、眠たくなってしまったので、そのまま眠ることにした。


(それにしても、何だって私はこんな所にいるんだろうか?私は沢山の家族に見守られながら病院のベッドで死を迎えたはず…。)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る