番外編1 Bランク冒険者グループ「七色の集い」

「……今、なんと仰ったのでしょうか? レッド」

「何度でも言うよ。『七色の集い』は今日をもって解散だ」

バァン!

「何故だ!」


机が勢い良く叩かれるが……レッドは怯まずに淡々と語り続ける。


「……ソエラ。君に相談していなかったのは申し訳ないと思っているよ。

でもこの解散は君以外のメンバー全員の合意なんだ」


「馬鹿な……! 私達はまだまだこれからでしょう!? あなたが隊長、私が副隊長の体制で、最速でBランク冒険者に成り上がったじゃあないですか!?」


「……確かに俺達は優秀な集まりだったよ。

でもみんな冒険者としてトップに立ちたい訳じゃなかったからね。


ただ自分の好きな事を追求するのに、偶然冒険者として過ごす時間が必要だっただけなんだよ。ソエラ、その事は君にも何度か話しただろう?」


「……そんなそんなの……納得できません!

大体、なんですか『好きな事』とは!?」


「シアンは魔法研究の為に学院へ、バイオレットは実家を正式に継ぐ、

カカオは料理人の夢を叶える為に、高名な料理人に弟子入り……

他もそれぞれだよ」


「くっ……全員私の補助魔法があってようやくBランク相当の人間の癖に……!


「ソエラ! 確かに君の補助魔法には大いに助けられていたよ。

そしてその事に気づかない程馬鹿な皆じゃない。

だからそれぞれ自分を高める道に行ったんじゃないか!」


「ググ……! もういいです! 私一人になっても『七色の集い』は続けます! 新たなメンバーを迎えてね!

後で『やっぱり冒険者を続ければ良かった』

なんて吠え面かいても知りませんよ!」


「ソエラ……!」


レッドは引き止めようとするが、ソエラは無視する。


ドスドスと、足音を大きく踏み鳴らしながら

出ていく様は悪い意味で注目の的だった。

そして翌日……


「私に着いてきなさい! このBランク冒険者ソエラ・ジーシに!」

「……いや、結構です」

「私と共になら、あなた程度でもAランク冒険者に……!」

「間に合ってまーす」

「今なら特別に『七色の集い』に加入して……」

「いや、今のグループの方が居心地いいんで……」


「クソッ!何故だ!?」

ガツン!


勧誘が全て外れたソエラは腹いせに路地裏のゴミを蹴りつけ、虚空に向かって怒鳴る。


「Bランク冒険者グループの副隊長からの誘いだぞ……

私なら絶対に断らないというのに……」


「なぁ、『七色の集い』が解散したって本当か?」

「本当だよ。さっきレッドさんが別れの挨拶して来た」

「!」


路地にソエラがいる事に気づかなかったのか、二人組の冒険者が噂話を始める。

話題だけにソエラは思わず聞き耳を立ててしまう。


「マジかぁ……このギルドじゃあトップレベルに有能だったのにな。

なんで解散なんか……」

「本人曰くやりたい事を追う為らしいけど……

まぁ間違いなくそれだけじゃないだろうな」

「……やっぱりアイツか?」

「……ああ、ソエラの振る舞いにいい加減限界だったんだろう」


「!?」(自分が原因だと!?)


少なくとも、彼にとっては思わぬ事実だったのだろう。

ソエラは眉を上げて、目も丸くする。


「まぁ……むしろよく見逃されてたなって感じだけどな。

ほとんど毎日報酬に文句つけて受付嬢さんに絡みに行くし……」


「誰も頼んでないのに、訓練中の新人に勝手に指導始めて

言い返されたのか暴力沙汰起こすし……」


「飲みに行けば自慢話か仲間の悪口が延々と出てくるし……いつだったか

『約立たずの介護をしなければ私はとっくにSランク冒険者になっている!』とか叫んでたよな……」


「あの時は本当に空気が凍ったな……思い出すだけで寒気が……」


「しかしレッドさんは凄いよな。あんな奴を経歴に傷がつく

『追放』じゃなくて穏便な『解散』って形にしてあげたんだから」


「ああ、俺もあんな冒険者になりたいぜ……」


(馬鹿な……そんな馬鹿な……)


ソエラはどうにか倒れまいと、路地の壁に手を着く。

そのまま数歩下がった所で何とか足に力を入れ直せた。

だが、彼の顔は真っ青で、肩もブルブルと震えている。


「私は……私の行いは……」


ハッキリ言ってクソみてぇな素行だが、

ソエラからすればどれも当たり前の事だった。


不相応な待遇に抗議することも、未熟な新人をより良く矯正することも、

自らの名誉と悲劇的な境遇を喧伝することも。


……ここまでいわれたら、普通人間は少し自分を省みるものだけど。


「許さん……許さんぞ……! どこまでもこの俺を侮辱し冷遇しよってぇ……!」


真っ青な顔は、一瞬の内に真っ赤に染まる。

拳は肉に爪が食い込む程握りしめられ、歯はギリギリと軋んでいる。


「思えばいつもそうだった……

どんなに真面目に努力しても俺を認めるどころか嘲笑った……!

ギルドに……いや! このゴミ以下の世界に復讐してやるぅぅぅ!!」


全て自分の行いが返ってきただけなのに。

ソエラは完全な逆恨みで復讐心を燃え上がらせ、空を睨みつける。


この後彼はギルドに来なくなり、ホルシド教に入信したのだが……

彼がどんな運命を辿ったのかは知っての通りである。



ギルドの人手不足。

ソエラが復讐と口走っていた事と、異様な戦い慣れ。


三つの伏線を回収する為の番外編でした。

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